リベラルについて

knockeye2012-12-14

 12月5日付の英国ファイナンシャルタイムスに「大差ない選択肢にうんざりする日本の有権者」という記事。
 ‘大差ない’という表現は、なるほどこういうときに使うんだなと納得する。石原慎太郎などは、大差もない上にさらに小異を捨てようと呼び掛けて、結果はほとんど何もなくなった。呼び掛けられた方の橋下徹はたぶんまだ国政には手が回らないのだろう。渡りに船で石原慎太郎に丸投げして、とりあえず、いくつか議席を確保できればいいくらいのところだろう。
 安倍晋三を見ていて、中国の指導部が国内の不満を反日デモに向けようとする心理が分かった気がする。原発問題も経済政策もむずかしいのである。これに対して、外交は気持ちよく威勢のいいことをいえる。 
 大前研一

 金利、日銀、国防軍など安倍総裁の「軽い発言」が目立っています。
 比例区小選挙区ですから2大政党のいずれかに票が偏る事が多く、
 現時点でもっと自民党が優勢でもおかしくないと思います。
(略)
  私に言わせれば、ごちゃごちゃ言わずに
 「民主党政権の3年間は許しがたい結果だった」という点のみ強調すれば
 良いのです。

と12月7日のメルマガに書いている。
 資本主義の世の中で、衆院解散と同時に株価が跳ね上がったことが決定的で、アベノミクスで景気がよくなるかどうかは知らないけれど、市場が民主党政権を否認したのだから、民主党に勝ち目がないことは、それを待つまでもないとしても、マニフェストを弄んだ政党が、どこまで負けるのかという興味くらいは残る。
 小沢一郎未来の党は、維新の会のパロディーだ。上のメルマガで大前研一も'天才的'と書いている。衆院選での未来の党と、都知事選でのドクター中松とどちらがプラクティカル・ジョークとして笑えるかということ。
 しかし、このパロディーは、小沢一郎という人物の荒涼な心象風景を映し出してうそ寒くもある。本気で脱原発をめざしているなら、去年、脱原発の一歩手前まで迫っていた菅直人をひきずりおろした意味が分からない。もちろん本気ではなく、切羽詰まった選挙目当てのスローガンにすぎず、だからこそ‘卒原発'なんだろう。ふつうの人はここまで見え透いたことはできない。これができることが、少なくとも今までの日本の政治家にとって唯一のリアリティーだったことを、今回の小沢一郎の悪あがきには思い知らされる。それしかしがみつくものがないために、これが日本のリアルだと信じるこの人の信仰はますます強固になったのだろう。みじめだと思う。
 今週の週刊SPA!を読んでいておもしろかったのは、鴻上尚史のコラムと、坪内祐三福田和也の対談という、まったく関係のない二つともが、はからずも'日本のリベラルの脆弱さ'について語っていることだった。
 ちょっと心覚えのために書き写しておく。もうすぐ大掃除で雑誌は捨てなきゃならないし。

坪内 今はもうリベラルな白人って少なくなってるのかもしれない。前は冷戦構造があったから保守 − リベラルという対立軸が見えやすかったでしょう。リベラルと左翼はまた違うけど、日本では戦後、共産主義がある程度認められたのに対してアメリカの場合は・・・。
福田 あの、レッドパージの酷さね。あそこまでいくと、ある種の宗教的偏見に近いよ。
坪内 だからアメリカの共産党って超マイナーだもんね。ただ、日本だと共産党や旧社会党の支持基盤として労働組合があるけど、アメリカの場合は共産党とは別にユニオンがあって、ユニオンはユニオンで強いんだよ。スタローン主演の「フィスト」('78年)って映画があって、スラム出身の男が全米長距離トラック輸送組合のリーダーになっていく映画なんだけど、あれを見るとよくわかる。
福田 アメリカのユニオンって、基本はギャングだから。
坪内 アメリカのリベラルって、共産主義とか左翼とはまた違うんだよな。1939年にヒトラースターリンが手を組んだことに衝撃を受けて、アメリカの共産主義トロツキストになるわけ。その人たちも戦後のレッドパージを経て、トロツキズムから離れていくんだよ。ただ、反体制という姿勢は残っていて、それがニューヨークの富裕層や知識層に根づいていく。
福田 石垣綾子の戦後の日記が、そのへんちゃんと書いてますよね。『回想のスメドレー』('67年)とか。彼女は戦前からずっとアメリカに住んで社会運動をやって、戦後はマッカーシズムで国外退去になっちゃうんだけど。
坪内 ニューヨークって、いろんなとこから亡命者が集まる場所でもあるでしょ。そこで芸術や知的な部分での交流があるんだけど、そこに集まる人たちは体制派ではないんだよな。共産主義とは距離を置きつつ、体制に対してはアティテュードを持つ ・・・そういう人たちがアメリカのリベラルなんだけど、日本でリベラルっていうと、そこまで強いイメージないじゃん。
福田 三木武夫をサポートした丸山眞男とか、そのくらいの感じだよね。
坪内 でも、アメリカのリベラルは、もうちょっと“主義者”だよね。主義があるんだよ。リベラルは民主主義を前提とした反体制なんだけど、日本は結局、民主主義が根づいてないからリベラルもないわけ。たとえば鶴見俊輔さんなんかはアメリカだとリベラルになるんだろうけど、日本だとアナーキストみたいな存在になっちゃうんだよ。
福田 精神とスタイルを含めて、現役のリベラルといったら、浅田彰だね。この頃はそんなに会ってないけど、あの人、フェアなんだよ。リベラルってたぶんそういうことだと思う。

 週刊SPA!のこの号は、有田芳生上祐史浩の対談もあってお買い得。