『徘徊タクシー』

knockeye2014-09-26

徘徊タクシー

徘徊タクシー

 『徘徊タクシー』という小説(著者 坂口恭平)を読んだ。
 題名がいいです。「失恋レストラン」(唄 清水健太郎)みたいな感じだけど、それよりさらによい。印象に残る。
 祖父さんの葬式で熊本に帰った主人公が、ぼけた曾祖母の徘徊につきあってみて、世の中のぼけ老人の徘徊には、実は何か隠された意味があるんじゃないかと、コペルニクス的思い付きをする。
 徘徊老人の足代わりに車を運転して、彼らの生きたいところにとことんつきあってみたら、知らない現実が見えるんじゃないか、私たちの知らない、彼だけの現実があるんじゃないか。
 こういう発想を小説にした時点で、○だと思います。
 でも、全体としては現実逃避で終わってると思う。現実逃避そのものは否定しないけど、逃避の仕方が甘い感じ。もうちょっとでかい迷路を期待していたのに、すぐに外に出ちゃった感じ。
 だから、むしろ印象に残るのは、祖父さんの葬式をめぐるエピソードだったり、徘徊タクシーの提灯を作ってくれる、へんなくず鉄屋さんだったりする。
 まあでも、考え直してみれば、ファウスト博士とメフィストフェレスみたいなものを期待している私の方が現実逃避したがってるのかもな。
 ところで、小林信彦の『悪魔の下回り』っていう『ファウスト』のパロディがあるのだけれど、やっぱりあれはあれでたいしたものだったな。
悪魔の下回り

悪魔の下回り