マーティン・スコセッシ監督が「マーベル作品は映画ではない」と発言して物議を醸したことがある。また、『アベンジャーズ』の「日本よ、これが映画だ」というコピーが大炎上したことがあったことを思うと、少なくとも「これが映画だ」はないだろうと思っている人が一定数いるということを示している。
こう書き始めるとこの後に続いて「しかし・・・」とか「かくして・・・」とか続きそうなものだが、とりあえずそういうことを言いたいのではなく、そういう議論に熱くなっていた人もちょっと唖然とする、飛び道具的な展開なんじゃないかと。
ネットでは宇多丸さんも岡田斗司夫も絶賛するという、これまた、絶賛にしてもこの何とも食い合わせの悪い感じがこの作品をよく物語っているか。
このさき、ネタバレせずに書けないが、今、Googleで『スパイダーマン ノーウェイホーム』と検索すると、キャスト欄にトム・ホランド、アンドリュー・ガーフィールド、トビー・マクガイアとあるので、もういいんだろう。過去のスパイダーマンが勢揃いしている。
だけでなく、ジェイミー・フォクス、ウィレム・デフォー、アルフレッド・モリーナと、ヴィランの側もオールスター感謝祭のノリ。よくこのキャストを集められたと、そのことに感心する。もしかしてコロナ禍の副産物?。
それと、評価の高かったアニメ作品『スパイダーマン スパイダーバース』の影響も言わないわけにいかない、同じくソニー・ピクチャーズだし。私は「スパイダーバース」の「verse」を「詩」なのかと勘違いしていた、「蜘蛛の詩」なのかと。そうではなくて「universe」のverseで、「単一」を示す「uni」に対して「multiverse」という多元的世界を示す概念があるらしい。「スパイダーバース」の「verse」はその「verse」だったらしい。
劇中にも一瞬フーディー(パーカーと言うとややこしいので)を着たスパイダーマンが登場する。ちなみに『スパイダーマン スパイダーバース』は続編がこの秋に公開されるそうだ。
宇多丸さんの話だとこの『スパイダーマン ノーウェイホーム』封切り当初の劇場は熱狂に包まれていたとか。わかるような、わからないような。それでまた思い出す。『スターウォーズ フォースの覚醒』が中国で受けなかった話。なぜなら中国人にはマーク・ハミルのルーク・スカイウォーカーが懐かしくないから。スターウォーズの最初の三作品は天安門事件以前だったから。
『スターウォーズ フォースの覚醒』で、マーク・ハミルが姿を表した時は、私も「おおっ!」とおもった。しかし、アンドリュー・ガーフィールドには「おや?」くらい。それこそマーティン・スコセッシ監督の『沈黙』の方を先に思い出すし、他にも『ソーシャルネットワーク』とか、まず頭に浮かぶ作品がいっぱいあるし。
そういうわけで、『スターウォーズ フォースの覚醒』を観た時の中国人の気持ちがわかってしまった。そりゃ岩井俊二作品の方がウケるよな。
でも、トム・ホランド版のスパイダーマンの優れてるところは、そんなオールスター感謝祭ぶりがメインでないところ。広げた大ぶろしきを見事にたたんでみせた。スパイダーマンの世界観は、マーベルのアベンジャーズの世界観とはどこかそぐわない。
ところで、ついでの話をふたつ。
ハッピー・ホーガンを演じているジョン・ファブローって人はユニークですね。そもそも『アイアンマン』の監督だし、『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』みたいな粋な小品も作るし。
それから、メイおばさんを演じたマリサ・トメイ。2019年にイザベル・ユペールと共演した『ポルトガル 夏の終わり』は名作でした。