フェミニズムと暴力について

 フェミニズムに限らず、すべての運動がどん詰まりに来たなってわかるのは、言うことが教条的になった時だ。
 私も世の例にもれず、ごくフツーにダウンタウン世代なので、「松本人志」って名前を見つけるとクリックしてしまう。
 この動画もそんなふうにして誘い込まれたのだが、実は、新しく始まる松本人志の番組に呂布カルマが出るそうで、その呂布カルマが過去に、修学旅行の男子高校生が、女子高生の露天風呂をのぞいたってニュースに「そりゃ覗くでしょ」って発言が問題だって話だった。
 そこに津田大介が呼ばれてて「こういう暴力」みたいなことを言ってるのだけれど、男子高校生が修学旅行で露天風呂を覗くことを「暴力」と呼ぶことはないと思う。なぜなら、ホロコーストも同じく「暴力」という言葉で呼んでいるわけだから、そうなると、「暴力」という言葉の内容があまりにも広がりすぎて、結果として無効化されてしまう。こういうことが具体的に「教条主義」と言われることなんだと思う。
 「覗きはダメでしょ」でいいじゃん。なんで「暴力」なの?。
 これで、この動画の仲間内ではさらっと話が進んでいくが、見てる人は「はぁ?」のまま置いていかれる。見てる人は「覗き」って「暴力」かなぁ?と思いながらスルーしてゆくわけだが、次からは、「覗きは暴力」って設定でこの動画を見ることになる。その論法をもう一歩推し進めると、「呂布カルマは暴力を容認した」って話になる。
 こういう論理の進め方をフェミニズムが是とするならもうフェミニズムは終わったと言っていい。がっかり。
 フェミニズムの最大の問題は未だに日本語訳がないことだと思っている。例えば、democracyを民主主義という日本語に訳したについては、それは少なくとも日本社会にdemocracyを根付かせようとする努力だったに違いなかった。
 フェミニストはそれすらする気がない。結果、フェミニズムの内容はいまだにフワッとしている。例えば、田中美津さんの時代の「ウーマンリブ」を「第2波フェミニズム」と言っているが、それはわざとわかりにくくしたいのか?。
 「ウーマンリブ」はウーマン=女性、リブ=自由、だから、「ウーマンリブ」も日本語ではないが「第2波フェミニズム」よりはまだわかりやすい。これも教条主義の陥りやすい方向で、仲間内でどんどん分化していく。
 このあたりはわざわざ取り上げるまでもなく、フェミニズムが世の中に晒している状況にすぎないが、この話で面白いのは、「露天風呂」がからんでいるところ。
 そもそも露天風呂がすでにきわめて日本的な文化じゃないですか?。もし「露天風呂」って言葉を知らない人がいて検索したら「野外にあって、屋根や囲いを設けない風呂。野天風呂。」と出てくる。
 露天風呂って文化を知らなければ、常識的に言って公序良俗に反しているのは露天風呂そのものであって、それを覗くも覗かないもない。屋根も囲いもない風呂に素っ裸で入ってる方が悪い。と、もし、露天風呂って文化がない国ならそう判決が下るでしょうよ。
 「暴力」というならそういう露天風呂に生徒を入らせる学校の側がはるかに暴力的なはず。これはほんとに冗談ではなく、露天風呂に入りたくない生徒もいたはず。これは男女を問わずいたはずだ。何なら、そもそも集団で入浴すること自体、きわめて日本的な文化じゃないだろうか。
 つい150年前までは混浴がふつうだったわけで、混浴であっても倫理観が保たれていた社会が日本社会だった。「混浴なんて不道徳だ」というのは、フェミニズムというより、単に差別にすぎない。それも江戸時代に来日した外国人の差別で、もしフェミニズムの価値観がそこで止まってるなら、第2波とか第4波とか言ってる場合じゃないと思う。
 つい最近も、ベルリンの市営プールで、女性のトップレスが許可された。「禁止は性差別」という訴えが認められた。 

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 もしフェミニズムというならこっちの方向が正常なはず。それを「男子高校生の覗き」を「暴力」って。
 この動画のタチの悪いところは、タイトルに「松本人志」の名前を使って釣ってるところ。松本人志が何をしたわけでもなく、さらには、呂布カルマが覗きをしたわけでもなく、単に「男子高校生なら女子の露天風呂を覗くのフツーでしょ」って、別に、それ自体、その辺にありふれた意見を言っただけ。
 覗かれた女子高生が文句を言うならまだわかる。それすら「露天風呂」だからね。正確に言うと覗いてないから。見えてるんだから。
 これがフェミニズムってことなら「くそフェミ」って言われても仕方ないと思う。こんなふわーっとした言説に賛成も反対もないわけで。
 繰り返して言うけれどこういうことに「暴力」って言葉を使うと「暴力」って言葉が死ぬ。死んだ言葉で人を強制するのが教条主義なんだと改めて確認できた。


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