ポトスライムの舟

休みの日はうっかりしていると一日中朝飯を食っている。
「花と兵隊」は結局観にいかなかった。
きのう職場のマシントラブルで帰宅が遅くなったのもあるが、MovieWalkerのレビューがよくなかったのと、そして何より、そのレビューの内容が、自分がちょっと引っかかっていた部分と重なり合うので、これはまずいかと。
「花と兵隊」は「クリーン」を見た映画館でも同時にかかっていて、雑誌に載った監督インタビューが壁に貼ってあったのを読んだが、そのとき、ざらっとした違和感を覚えた。「花と兵隊」というタイトルも、安易というだけでなく、作り手の価値観の押し付けを感じる。
これだけ理由があれば観客としては充分。で、却下。
朝から雨が降っている。きょうは十月ごろの気温らしい。
古い文芸春秋を引っ張り出して津村記久子芥川賞受賞作「ポトスライムの舟」を読んだ。
最近は、面白い嘘より、嘘がないことのほうが面白くなってきている。嘘を面白がるほど本当のことがわかっていないとしみじみ感じているせいなのかもしれない。
この小説は嘘を書いていないので、明るく力強いのだと思う。
奈良の古い家が舞台であるのも作品を魅力的にしている。
登場人物が、老いも若きもみな女性というのも、グレイス・ペイリーみたいでいい。私の好みには嵌まった。
その文芸春秋を引っ張り出していたのは、もうひとつ目的があって、野口悠紀雄の寄せた文章を読むためだ。
民主党が308議席を獲得して政権交代が実現したことは喜ばしいが、一部マスコミの論調(というか雰囲気)には、自民党敗北の責任を小泉純一郎竹中平蔵に着せようとするものもあるし、そして、何より問題なのは、生き残った自民党議員たちがこの選挙結果を自分の責任ととらえずに、小泉純一郎竹中平蔵の責任にして片付けようとしている、麻生太郎を筆頭に。
私は「格差社会」という視点そのものが日本の現状を読み解くために有効な視点だと思っていない。
ちょっと考えれば分かるが、格差のない社会は存在しないし、それが問題だとしても程度の問題に過ぎない。基準が曖昧な問題を議論しても水掛け論にしかならないのは当然だし、基準をはっきりさせようとしてジニ係数などを引っ張り出すと、「数字に表れない部分が問題だ」とか言い出す始末。
つまり、「格差社会」をめぐる議論を大局から眺めれば、日本人におなじみの光景、足の引っ張り合いね。
そして、その「格差社会」をふりまわしているネット世論の行き着く先は「小泉、死刑、竹中、死刑」という幼稚さ。こういう連中に関わっていても、前向きな結論に到達することはありえない。
そもそも小泉構造改革といったって、郵政選挙でようやく郵政民営化が決着したばかり。そのあと、麻生太郎が骨抜きの方針に大転換したわけだから、まともにその成果を評価できるほど何かが行われたとまではいえないと思っている。
感情的な「格差社会論」は必要な検証が成熟するのを妨げている。
そんななかで小泉政権の政策への批判で的を射ていると思ったのは、この野口悠紀雄の文章だけだ。
野口悠紀雄は、日本の外需依存を加速したのは、2003年から翌年にかけて財務省が行った為替介入だとしている。
日本の輸出産業を保護するための財務省の為替介入から円安バブルが生じ、産業構造が輸出依存になった。
一方で、円の購買力が低いので一般国民は豊かさを実感できない。輸出産業を保護しているので、労働力がそちらに取られて新しい産業が育たない。韓国や中国がキャッチアップしてくる、古い産業構造から脱皮できなかった。

構造改革」を掲げた小泉政権だったが、その経済政策を検討すると、その実態は、構造改革とはまるで反対の既存の輸出産業を温存するための政策であり、輸出バブル促進政策だったといえる。

と書いている。
市場原理主義だの、新自由主義だの、わけのわからない批判より、私にはこの説明が一番しっくり来るがいかがだろうか。

 2004年ごろ、アメリカの住宅金融が過熱していることに気付いたグリーンスパン短期金利を上げ、市場のクールダウンを図った。ところが短期金利を上げても、長期金利が上がらず、結果として住宅バブル対策にはならなかった。
 後にグリーンスパンは議会証言で「これは謎だ」と語っているが、これは日本や中国からの資本流入が原因だったと考えられる。海外からの巨額の資本流入が、アメリカの金融政策をも狂わせ、バブルを不可避なものとしてしまった、という側面を忘れてはならないだろう。

日本は、バブル崩壊に続く失われた10年を、不良債権を処理することで乗り越えたあと、つまり、高度経済成長後、輸出産業の保護のため円を安くし誘導した。長期的に見れば、このことが最大の失敗だったのではないだろうか。むしろ円を強くする政策が国際競争力を高めるために必要だった。
でも、アメリカの方でも円が強くなっていくことを望まなかったのも事実だろう。
内需主導の経済になるとか、アメリカべったりの外交姿勢を辞めるとかいうことは、円が強くなると言い換えられるだろう。
民主党政権下で円がどうなっていくかに注目している。