上村松園

九段下で地下鉄を降りて北の丸公園を歩いてみた。まだ暑いけれど、乾いた空気に季節の移ろいを感じられる。
去年の明治神宮の銀杏並木は、小林信彦ですら、ちょっとないくらい見事だと書いていたが、この猛暑のおかげで、今年の紅葉にも期待していいかもしれない。
上村松園のイメージに、今でも貢献しているのは、名取裕子がこの画家を演じた映画「序の舞」だろう。
あるいは、その原作となった宮尾登美子の小説だろうか。
いずれにせよ、この画家の人気の高さが、きちんと入場者数に反映されていたのは頼もしいかぎり。じっくりと絵を見たいという人は朝早く出かけるのがよいだろう。
展示されている素描や下絵を見て、松園は、女たちの顔の表情を、あえて削ぎ落としていると気づいた。
上村松園は、顔の表情で何かを表現しようとはしていない。
その意味で、嫉妬に狂う<焔>はきわめてめずらしい。
松園自身は、<序の舞>や<鼓の音>のような張り詰めたたたずまいに美の理想を見ていたと思う。
なお、期間中、展示替えがあるので<序の舞>は9月28日からの展示、<焔>は9月26日まで。