「バベル」のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督。「ノー・カントリー」のハビエル・バルデムが、主人公ウスバルを演じる。
「バベル」は、役所広司やブラッド・ピットなどが出演した、アメリカ、メキシコ、日本、アラブに舞台をとった群像劇だった。「BIUTIFUL」にも、中国人、セネガル人など、文化の異なるキャラクターが重要な役割を果たすが、今回の方がずっとこなれていると思う。
ウスバルの孤独が、周囲の人たちの孤独を、むしろ際立たせる。
青春の甘い感傷としての孤独ではない。この主人公に感情移入することはできない。観客は、むしろ、酒場の客のひとりのように、偶然居合わせたドラマの前に立ち尽くすしかない。
「バベル」の観客に与えられていたような、特権的な、いわば、神の視点は、この映画にはない。
そして、なにより特筆すべきは、映像の重厚さ。名品の黒楽茶碗を手にしたような、ずっしりとした手応えがある。おそらく字幕なしで見通しても、鑑賞に堪えるのではないかと思う。
中国人たちの地下室のシーンと海のシーン、ピレネーの森のシーンは、忘れがたい。
孤独と死に捧げられた詩であり、見終わったあと、観客は、自分の孤独の手触りを確かめる。