松岡映丘

knockeye2011-11-04

生誕130年 松岡映丘−日本の雅−やまと絵復興のトップランナー:練馬区公式ホームページ 生誕130年 松岡映丘−日本の雅−やまと絵復興のトップランナー:練馬区公式ホームページ 生誕130年 松岡映丘−日本の雅−やまと絵復興のトップランナー:練馬区公式ホームページ このエントリーをはてなブックマークに追加
 十月三十日は松岡映丘を観に行った。
 柳田国男の『故郷七十年』には、

・・・映丘(てるお)という雅号は、本名の輝夫にちなみ、次兄の通泰がつけたものである。
 古い文学にある、「丘(を)に映(て)る」という言葉からつけたもので、もちろん音で映丘(えいきゅう)と訓まれることは覚悟の上であった。

 この「映丘」の名付け親、井上通泰が橋本雅邦と親しかったために、映丘ははじめ橋本雅邦の弟子についていたが、柳田国男の言葉によると、

 ところが、どうも雅邦先生の所では落着かないらしく、自分で土佐風の絵を描いてみようという気持を起したのは、やはりどうも松岡流の、何か人と違うことをしようという気持ちがあったからであろう。

 橋本雅邦の許を去り、山名貫義という土佐派の先生に入門するが、この先生、かなりご高齢だったようで、入門してまもなく亡くなり、

輝夫もちょっとまごついたらしいが、もう一度雅邦先生の所に行くわけにもいかず

そのころまだ新進だった小堀鞆音につき、美術学校に入った。

近世の土佐派というものは、型にはまって、少しも新しいものが出る余地がなかった。それでも輝夫は迷わずに、ずっと小堀さんについていった。昔あったような絵具がいまはないとか、絵具の使い方がどうしても判らないのがあるとか、そういう技術上の障害があったにもかかわらず、いろいろ工夫して自分で道を開いていった。五十八歳という若さで死んだのも、あるいはこういう一途に打ちこんだことによるのかもしれない。

 すこし引用がすぎるのだけれど、兄弟ならではの、映丘の肉声が聞けるような気がするのでもうすこし、

いちばん野心を燃やして人に訴えていたのは、従来の土佐派とちがい、山水をもっと描かなくてはならないという点であった。絵巻物を開いた初めのところに出て来るような、風景だけ描いた絵に眼をつけて、それを大きくし、もう少し自然に描けるようにしてみたいということを、私によく話していた。

 柳田国男が絵の題名を書いてくれていないので、ちょっとわからないのだけれど、大三島の宝物館にはいっているという坂越の風景を描いた絵は、もしかしたら、今回展示されていた<さつきまつ浜村>なのかなとも思ってみた。
 坂越には、この夏、帰阪したおりに、両親とドライブのついでに立ち寄ったが、浦の感じが似ていると思う。出品リストには「個人蔵」となっているので違うかもしれない。<大三島>という絵もあるけれど、それは大三島を描いているのだろうし。
 <千草の丘>の着物の婦人像は、当時、まだはたちそこそこで、トップアイドルだった‘初代’水谷八重子。あまりに似すぎていたために「モデルはあくまでモデルであるべき。あそこまで似ているのはいかがなものか」という、いかにもアカデミズムな、訳の分からない批判をされたそうだ。
 ロートレックのイヴェット・ギルベール、アルフォンス・ミュシャサラ・ベルナール、モンパルナスのキキ、東洲斎写楽の歌舞伎役者たち、みんな実在の人物を描いている。それが‘似てはいけない’なんてことがあるだろうか。明治の日本画がダメになったと言われるのは、このような画壇の在り方に原因がありそうだ。
 先日の伊東深水もたくさんの肖像を描いた。あの日にアップしておいた<菊を活ける勅使河原霞女史>、いい女ですよね。速水御舟に感動して画家を志した深水だけれど、女に関しては御舟をはるかに凌駕したと思います。もちろん、女だけでなく、恩師、鏑木清方肖像画も名作。
 現代の日本画家はあまり役者絵を描かないだろうかと考えてみた。横尾忠則高倉健、ペータ佐藤の山口小夜子、とかしか今は思い浮かばない。会田誠のフジ隊員とかもあるけど。現代の作家にも役者絵を描いて欲しいなとも思う。松井冬子の‘AV女優百態’とか面白そうだけど。
 話を松岡映丘に戻すと、柳田国男が書いているとおり、映丘の目指した‘大和絵の山水’が実に魅力的で、松岡映丘を観に行くのはこれに惹きつけられてのことだ。
 日本の水墨画が描いてきた山水は、ずっと中国の影響下にあった。狩野派の山水に描かれている峨々たる山容、あんなの日本ではまずお目にかからない。大和絵が描く深い青と緑のなだらかな山並みが日本人にとっては懐かしい風景だということが、映丘の風景画を見ていると納得できる。
 川合玉堂のところでも書いたけれど、松岡映丘もまた、日本を再発見したひとりだったろう。その意味でもこの画家の存在は大きいと思う。
 ところで、伊東深水のとき書き忘れたけれど、平塚市美術館では、「アーティストin 湘南 2」という展覧会も併催中で、伊東深水展のチケットでいっしょに見られる。
 高良眞木・内田あぐり・石井礼子という三人の女性画家の絵が展示されていたが、石井礼子の<私の周囲>シリーズはサイコーに楽しい。伊東深水展に出かける方はぜひ見てほしいです。