桜花図屏風

ニューヨーク・バーク・コレクション

上野東京都美術館の中庭には、のこぎりを奏でる大道芸人がいる。きのうは「早春賦」を弾いていた。「春は名のみの風の寒さよ・・・」。
「ニューヨーク・バーク・コレクション展」が始まっている。以前チラッと言ったけれど、お目当ては、酒井抱一の桜花図屏風。抱一といえば、重要文化財の夏秋草図屏風の印象が強いので、原っぱの草にしか興味がなかったのかと思っていた。それほどあの夏秋草は典雅なのだ。凡百の花の絵などかすんでしまう。
絵は語る (13) 夏秋草図屏風-酒井抱一筆 追憶の銀色-
しかし、その抱一の筆をもって描かれた桜は、春が色あせるほど。桜のイメージという点では実物の桜も越えている。
六曲一双の右の屏風の中央には、うろのある古木が立ち、左の屏風には二股にわかれた若木が左から右へなだらかに傾いでいる。幹は根元に向かうにつれ金箔の中に消え、板塀を思わせる銀箔が絵の下部を引き締めている。花さがりの樹冠部はほとんど絵のなかに収まらず、花をつけた枝が一枝、二枝、のぞいているだけ。角を曲がって、桜の下枝が目に飛び込んだ瞬間を、永遠に閉じ込めたようだ。金箔は春の陽光にとけてしまう。
屏風は3Dなので見る角度によって枝や花が重なり合い、さまざまな姿を見せてくれる。もし観にいかれることがあったら、正面から見るだけでなく、あちこちと移動して観るとより楽しめると思う。ちなみに印刷なんかでは絶対に再現できないので、実物を見るしかない。そういいつつ例によって絵葉書を買ってきたが、実物とはまるで違う。
もうひとつうならされたのは、長澤芦雪の月夜瀑布図。うなると思う。
このコレクション、縄文土器から明治時代まで及んでいるので、絵だけでもほかに、宗達、応挙、蕭白若冲と、日本絵画のスターが勢ぞろいしている。見とかないともったいない。
そのあと、上野から地下鉄銀座線を三越前半蔵門線に乗り換え、(このへん予習していった)清澄白河駅で下車、深川の町を歩いて東京都現代美術館に。『「日本画」から/「日本画」へ』というわかったような、わからんような展覧会を観にいった。最近、日本画が復興しはじめているらしい。しかし、さすがに、抱一、若冲、芦雪、応挙と見てきた後では、まだまだ甘いと思ってしまった。つまり、江戸時代の絵の自由闊達さに対して、なんだか抑圧とか屈折を感じてしまった。松井冬子という人は今話題なんだけど、それを感じた。悪い意味ではないが、江戸の絵を見た後では、それはなくてもいいんじゃないかと思えた。町田久美という人の絵は面白かった。でも、日本画なんだろうか?この二人には、日本画にこだわってる、こだわってないの違いは、たしかにあるだろう。
ここの常設展にはディヴィッド・ホックニーが多い。ちなみにホックニー水墨画もうまい。チューリップの水墨画を見たことがあります。
それから、草間弥生が何点か。去年、草間弥生を見にいけなかったのはとても残念だった。ちょうど引越ししたてで忙しかったので。