根津美術館所蔵の鈴木其一の《夏秋渓流図屏風》が重要文化財に指定された記念展が開かれている。
《夏秋渓流図屏風》を中心に据えて、関連する作品を展示していたので、これまであの絵に感じていた変な感じの正体が分かった。
あの絵に特徴的なのは、何と言っても渓流の青色なのだ。それがなぜ違和感を感じさせるのかが、酒井抱一の《青楓朱楓図屏風》と、円山応挙の《保津川図屏風》を見比べてよくわかった。
《青楓朱楓図屏風》は、尾形光琳のオリジナルを抱一が写したものだそうだ。光琳のオリジナルは失われているが、酒井抱一自身が集めた『光琳百図』にその構図が残されている。これが光琳らしくデザイン性に優れた画面で、こういう構図には目が覚めるような青い流れがよく似合う。しかし、その青い流れには、「光琳波」と言われる意匠的な波の表現がふさわしい。
これに比べて、「写生」を標榜した円山応挙の《保津川図屏風》の流れは、ほとんど水墨画に近い淡い色で、右隻左隻の両方から実際に水が流れ寄るかのようなダイナミズムがある。
鈴木其一の《夏秋渓流図屏風》は《青楓朱楓図屏風》のようなベタな青で《保津川図屏風》のようなダイナミックな流れを描いているので違和感があるみたい。
鈴木其一はほぼ幕末の人で、さまざまな流派の画風を貪欲に学んだ人だった。サントリー美術館で開かれた回顧展には、まるで伊藤若冲風なものもあったし、今回の展覧会でも、《昇龍図》の水墨も見事だし、《菊図》は沈南蘋とか田能村直入みたいなボタニカルアートを思わせる。《浅草寺節分図》は浮世絵風でもある。
《夏秋渓流図屏風》は、そういうミクスチュアが、ちょっとぶっ飛んだ感じになったんだと思う。多才で多作という意味では、幕末の横尾忠則さんみたいな感じだったかも。
図録を見ていて気が付いたけど、11月30日に展示替えがある。《藤花図》が明日まで。
2階の第六室では、炉開きの炭手前のしつらえが展示されていた。11月は世間ではハロウィンとクリスマスに挟まれて何もないようだけれども、お茶の世界では、炉開きの改まる月。
短冊に鴨祐夏の「ふみわけむ跡おしまれてけさはまた人をも問わぬ庭の白雪」という歌があった。展示を見ているだけでも切り炭の温かな匂いがしそうだった。
庭の紅葉は、大山と同じく、やはり今年は裏作みたいで、色つきは例年よりはよくないようだった。