ワンフレーズ

小泉純一郎前首相が、大連立について「残念だった」と語ったそうだ。ワンフレーズ・ポリティクスで名を馳せた人だけのことはある。
わたしが思いつくだけで少なくとも、この一言には二つの意味がある。
まず、この出来事が自民党に有利な展開のうちに、早期に幕引きしたいというねらい。「もう過ぎたことだけどね」といいたいわけだ。
もう一つは、大連立自体の、密室性とか野合とかのネガティブなイメージを払拭したいというねらい。「実現すればよかったんだけどね」というニュアンス。
それを「残念だった」という、日ハムのヒルマン監督が言いそうな、軽い一言で表現するのが、小泉純一郎の真骨頂で、これをくどくど言っていたのではアピールしない。
政治家の評価をどこにおくかにもよるが、この一言を聞くかぎり、他の政治家より力量で頭一つ抜きん出ていると思う。この人が総理に就任した当初、「米百俵」などという話が現実味を帯びていた。それほど経済状態がひどかったのである。今、福田首相が「米百俵」の話をしたら、「はあ?」と言われるはずである。小泉・竹中両氏が経済の建て直しに成功したことは、それ以上でも以下でもない事実である。
格差とかいうけれど、日本の地域格差がひどいとは、わたしは思わない。ウラジオストークからモスクワまでとことこバイクで走っていく。途中、クラスノヤルスクとノボシビルスクはたしかに都会だと思ったが、モスクワはその比ではない、文字通りの不夜城だ。停まっている車はほとんどベンツ。大きな液晶ビジョンが広告を流し続けている。深夜を過ぎても人通りが絶えず、ホテルの入り口にはシルクハットと燕尾服のドアマンが立っている。シベリア鉄道の停車駅には、大便所のドアがなかったのにだ。もちろん和式(?)のぼっとん便所です。使用した人間が言うんだから間違いない。自慢じゃないけど富山駅の便所だってちゃんと水洗です。
格差社会というフレーズは、地方へのカネのばら撒きの中から、自分の取り分を確保しておきたい役人のお題目である。気持ち悪いのは、こちらのワンフレーズは、発言している人間の顔が見えない点である。