
- 作者: 久保寺健彦
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/11
- メディア: 単行本
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団地の中だけで暮らして、外の世界に出られない少年と聞くと、同じように船で生まれて、船の上で生涯を終えた天才ピアニストの物語、映画「海の上のピアニスト」を思い出す。だから、そういうファンタジーとして無理なく物語りに引き入れるあたりが、この作者のなかなかの腕前なのである。
作者は塾の講師との兼業作家だそうで、そこになにか臨床的リアリティーを感じる。学校の教師から見るのと、塾の講師から見るのとでは、子供の見え方がまるで違うのだろうと思う。団地から出られないという不思議な設定にもかかわらず、私たちが生きているたったいまの社会は、たぷんこんな風なんだろうと思ってしまう。そういう等身大の「今」が上手く描かれているのも、青春小説の重要な要素だろう。
小説のほぼ折り返しの時点で、主人公が団地を出ない理由が明らかになる。それが、恋愛とシンクロして描かれているのもうまい。大人になるためには、そこから出て行かなければならないはずだから。団地も古びてどんどん寂れていく。はたして、この少年はこの団地を出られるのか。一気に読まされてしまった。ストーリーテリングが上手いのだと思う。
それに、空手の鍛錬、ケーキ職人の修行、サッカーのリフティングなど、身体性の話題が多いことも、話の足腰を強くしていると思う。
第一回パピルス新人賞受賞作。
話は変わるが、セックスを身体の側から語ると、全く興奮しないことに気がついた。世の中のポルノ小説のセックス描写は観念的なのだ。たしか、村上龍も、今までに一番興奮したメディアは、ビデオでも写真でもなく、ポルノ小説だといっていた気がするが、ポルノ小説家の多くは男であるはずだから、つまり、男が男の妄想を読んで興奮しているということになる。
どうして、宗教がセックスを否定するのか時々考えるのだけれど、もしかしたら、観念と肉体を、宗教より先に分離したのがセックスだからかもしれない。宗教とセックスのストーリー展開は案外似ている。