「みなさん、さようなら」補遺

knockeye2013-02-03

 昨日の続き。
 それから、書き忘れていたけれど、濱田岳は「ゴールデン・スランバー」の殺人鬼役を思い出せば分かると思うが、アクションができる。「みなさん、さようなら」は、原作もそうだけれど、身体性(ということばしか思いつかなくて恐縮だが)も重要なテーマになっている。空手、ケーキづくり、サッカーのリフティング。
 大山倍達は、あるインタビューで「強さとは何ですか?」と聞かれて、「二本指で逆立ちできることだ」と即答していた。この答えのすごさは、精神論のかけらもないところ。身体と精神の境目はじつはあいまいだから、生半可な身体論はよく聞くと精神論が忍び込んでいたりする。たとえば、‘毎日腕立て100回’とか。だけど、‘二本指で逆立ち’は、かなり純度の高い身体論だということがわかるだろう。
 かかえている死のトラウマを乗り越える方法論として、この主人公がしらずしらず身体の鍛錬を選択していることにきづくべきだと思う。空手、ケーキ作り、リフティング。
 「海の上のビアニスト」の主人公、ナインティーン・ハンドレッド(この名前がひとつの時代を指していることは間違いない)は、船と運命を共にするが、「みなさん、さようなら」の主人公は、団地を出て行く。団地は日本の高度成長のアイコンでもあるので、わたしには、この主人公や、主人公の友人たちが団地の階段を下りていく姿に、高度成長の後始末をおしつけられた若い世代の姿を見てしまう。それでも、同時にまた、その後ろ姿に希望を感じてしまう。新しい時代がまだ見えなくても、古い時代を捨て去る勇気それ自体が希望だと思うので。