『レ・ミゼラブル』観ました

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レ・ミゼラブル

 映画館が再開したのでさっそくでかけた。
 でも、日常はまだ帰ってこない。二か月前の週末みたいに、駅のHOKUOで塩パンとコーヒーをと思ったが、コーヒーは提供していないと言われてしまった。いつもお昼を食べていたとんかつ屋さんもシャッターが閉まっていた。
 『レ・ミゼラブル』はコロナ直前にすごく話題になっていた映画だったが、個人的に観たタイミングが悪すぎたと思う。
 毎日、black lives matterのデモや暴動がyoutubeで流れている真っ最中で観ると、それでも迫力があるというとウソになる。
 ヴィクトル・ユゴー×スパイク・リーとチラシに書いてある。ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台になった町モンフェルメイユ。監督のラ・ジリは実際にそのモンフェルメイユの生まれで今も住んでいる。マリ出身の移民を親に持つ二世だそうだ。
 映画のエピソードは、実際に見聞きしたエピソードに近いそうだが、それを聞いて思い出したのは、東日本大震災園子温監督が描いた『希望の国』で、あれは、東日本大震災の時に実際にあったエピソードを集めたような映画だった。
 しかし、不思議なもので、実際の出来事を集めたら真実になるかというとそうはならなくて、何ともフラストレーションのたまる出来だった。たぶん、「実際の出来事」は表現のためには言い訳に過ぎないんだろうと思う。
 園子温監督が東日本大震災を描いた映画では、むしろ、そのあとの『ひそひそ星』がすばらしかった。SF映画だが、福島をロケーションに、福島の人たちが役を演じている。『希望の国』の真逆のアプローチだが、そちらの方がより大震災のきずあとを強く印象付けていた。
 『レ・ミゼラブル』は、これはたぶん、連日YouTubeで本物の暴動をみているせいもあるのだろうが、ストーリーはむしろありきたりに思えた。
 それよりも、モンフェルメイユのスラム化した団地の佇まいが圧倒的に印象的だった。インタビューによると、モンフェルメイユ三部作を計画しているそうなので、楽しみに待ちたい。
 日本でも少し前に、「団地映画」ブームがあった。中村義洋監督の『みなさん、さようなら』、是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』、宮藤官九郎監督の『中学生円山』、阪本順治監督の『団地』。
 アメリカ映画でいうと、団地ではないが、デトロイトブームと、呼ばれているかどうかは知らないが、デトロイトを舞台にした映画なんかは、味わいが似ていると思う。それはつまり、第二次大戦後から高度成長時代の都市計画が、残骸となってしまった夢のあとなのである。
 いま世界をおおっている分断は、そこから始めようとしている人たちと、それは斬り捨ててしまえと思っている人たちの間で起こっているように思える。
 この映画はまた、ポン・ジュノ監督の『パラサイト』とパルムドールを争ったそうなのだが、お金の掛け方がまるで違うのが画面からも伝わる。
 この映画にもひどい警察官がでてくるのだけれど、アメリカの警察官よりははるかにまとも。
 カメラの前で人を殺して平気なのが現実の警察官なんだから、いくらリアルな演技でも歯が立たない。

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