「みなさん、さようなら」

knockeye2013-02-02

 中村義洋監督、「ポテチ」の次回作が、この「みなさん、さようなら」だと聞いた時は、ちょっと「え」と思った。この原作はかなり昔に読んだ記憶があって(日記を検索してみたら2008年のお正月)、よかったと思ったのだけれど、この読後感を自分の中でどう位置づけたらいいのか、ちょっと曖昧なところがあって、ブログで誉めたほどには確信がなかった。
 じつは、先週土曜日、横浜美術館ロバート・キャパゲルダ・タローのあとに観る予定にしていたのはこの映画だったが、その時点でもまだ観るかどうか迷っていたくらい。
 週刊スパ!に中村義洋監督と主演の濱田岳のインタビューがあって、シナリオをもらった後に原作を読んだ濱田岳は「中村義洋監督のシナリオのうまさに改めて気付いた」みたいなことを語っていたが、わたしとしても中村義洋監督に、読者として‘負けた’思い。
 読みが深いというか、キャラクターについての思い入れが強いというのともすこしちがって、もしかしたら、本を読むと同時平行して、この人の中で映画が紡ぎ出され始めているのではないかと思う。
 この作品の同時代性は、原武史の『滝山コミューン一九七四』もそうだけれど、団地文化という視点。団地の栄枯盛衰は高度経済成長と歩調をともにしているようにみえる。そして、その価値をもう一度見直してみてもいいんじゃないかと、わたしなんかは思うし、そういう、個々の家ではなく、コミュニティーをどうやって創っていくのかということから暮らしを見直していこうという気運も、たとえばシェアハウスとか、スマートシティなんかを見ていると、高度経済成長と低成長時代という、山の上り下りで景色の意味合いは違うのだけれど、すこし生まれてきているようにみえる。
 ごく私的な話をすれば、そろそろ引っ越しをしようと考えていて、いろいろ部屋を探しているのだけれど、こないだ見せてもらった部屋がまさにそういう団地の匂いがするところだった。向かいの部屋にかかっている表札がロドリゲスとかマルチネスとか、なんかわすれたけどそういう名前だったのを、この映画を観ていて思い出した。そういう同時代のリアルをちゃんと描き出せるのも、映画監督として重要な資質のひとつじゃないかと思う。この映画が描いているのは、「桐島、部活やめるってよ」とおなじように、今の時代の等身大の青春なんだろう。
 主題歌を歌っているのがエレファントカシマシなのもちょっとにやっときた部分。ボーカルの宮本浩次が「自分は団地育ちだ」といっていたのを思い出して。
 主演の濱田岳が13歳から30歳までを演じるのは、ある意味では無理がないキャラクターかも知れないけど、倉科カナ、波瑠の女優陣が中学生から大人までを演じるのはみどころのひとつ。
 それから、母子ものでもあるので、よけいなことをひとこというと、泣けます。