グレアム・グリーン 『二十一の短編』

knockeye2008-07-08

二十一の短編  ハヤカワepi文庫

二十一の短編 ハヤカワepi文庫

グレアム・グリーン 『二十一の短編』を読み終えた。
各編の冒頭に訳者の解題が1ページ。これは、どうなんだろう。巻末にまとめてもらっても支障なかった気がする。
気に入ったのは、
「特別任務」
「ブルーフィルム」
「エッジウェア通り」
「アクロス・ザ・ブリッジ」
「無垢なるもの」
「即位二十五年記念祭」
「たしかな証拠」
「第二の死」
「パーティの終わり」
で、
「ブルーフィルム」、「アクロス・ザ・ブリッジ」、「無垢なるもの」、「即位二十五年記念祭」は、大人の味わい。
「エッジウェア通り」、「第二の死」、「パーティの終わり」は、こわい。
「特別任務」、「たしかな証拠」は、妙にリアルでおかしい。
つい先日、「死が眠りだなどというのは他者にとってのことで、本人にとっては眠りであるはずがない」的なことを書いたけれど、それを見事な手腕で小説にすると、「第二の死」みたいになるのだろう。
ただ、聖書の引用にすこし分からないところがあるので、実は、私のとんでもない勘違いかもしれない。
一番怖いのは、「パーティの終わり」か。
歌舞伎の「だんまり」を思わせる、沈黙と暗闇の世界に、突然、ぬっと手が現れるような印象がある。
うまいのは、恐怖の最大の瞬間から、恐怖を感じた側の心理は一切描写していないところ。
死の瞬間はいつだったのか、ということだけれど、「いうまでもないだろ?!」と突っ込まれそうだが、少なくとも読み終えた後に、「あの瞬間だったんだ」と気づくことになるわけで、恐怖の余韻が読後感に残る。
翻訳者が「心の中で思わず悲鳴をあげて」しまったというのもうなづける。
視点を兄の方においているので、これが可能になっている。お見事という感じ。