抑止力

日米安保ということを考えるときに、もっとも滑稽なのは、戦争で他国の軍隊に蹂躙された自国の領土を、65年間も放置しておいて、しかもそれを「抑止力」だとか思っているその感覚である。
いちいちこんな当然のこと書くのはバカみたいなんだけど、アメリカ軍というのは他国の軍隊。その他国の軍隊が自国の領土内に基地を構えている以上、その国の政府は防衛とか安全保障とかそういうことを口にする資格すらない。
鳩山由紀夫は、誰かから学んで、普天間のアメリカ海兵隊が「抑止力」だと気がついたらしいのだけれど、それは、それこそ、ありとあらゆる意味でバカ。
今週のSPA!に坪内祐三
社民党の連中は、『沖縄に基地なんか要らない。沖縄からアメリか基地を撤廃しろ』と言ってるけど、そうなったら逆に、『憲法を改正して自衛隊を国軍にして、武力を強化して、自衛=自分で守る』という超タカ派の論理がきっと出てくるでしょう。というか、『沖縄からアメリカは出て行け』ということと、『自衛隊を国軍にする』ってプランと、セットじゃないと筋が通らないよ」
といっている。
まるで自衛隊が国軍じゃないみたいな言い方だけど、しかし、その通りなので、つまり、米軍の駐留が終わらないかぎり、日本の安全保障は議論として成立しない。
もう一度書くけど、他国の軍隊を自国の領土内に住まわせておいて「安全保障」なんてちゃんちゃらおかしい。
この前も書いたけれど、だから、福島瑞穂の言っていることにもっとも政治的なリアリティーがある。
まず、米軍の駐留を解消する。その上で、なお憲法九条を堅持する、とか、坪内祐三がいうように、憲法を改正する、とかの議論が意味を持つので、アメリカの核の下に隠れたまま、右だ、左だと議論していたウヨクとかサヨクとか言う連中は、世界の笑いものだった。
55年体制が崩壊し、政権交代が成ったときに、日米同盟のあり方も総点検されなければならないだろうとは、日本人よりもむしろバラク・オバマやヒラリー・クリントンが思ったはず。アメリカを含む日本以外では、‘改革’とか‘政権交代’という言葉に中身がある。
政権交代前に、ヒラリー・クリントン小沢一郎に会見を申し入れたのは、そういう意味だったと思う。まさか、308議席も獲得しておいて、選挙公約をなぎ倒すとは。それに、小沢一郎は国連中心主義者だと思っていたのだが、いったいどうなってるんだろう。

朝鮮半島の情勢をめぐって米中が緊張し始めている。それは沖縄の軍事的な重要度が増していることを意味している。ますます、日米安保成立当時と状況が似てきている。
数日前このブログで紹介した豊下楢彦の『安保条約の成立―吉田外交と天皇外交 』の‘ソ連’を‘中国’に書き換えるとほとんどそのまま今の政治状況。そして悲しいことに、日本の官僚と政治家の‘あちゃちゃちゃ’という目を覆いたくなる惨状も、そっくりそのまま。ここに書いた文章すべてに(笑)と付けたいくらい。
以下は、今日書かれたダイヤモンドオンラインの上杉隆の記事。

「できれば国外、最低でも県外

 こう語って総選挙に勝利した鳩山首相だが、沖縄県民との公約は事実上破棄された。
(略)
 最後に残されていたグアム・テニアンサイパンなどへの国外移設の可能性も、きょう(5月12日)、首相官邸自らがその芽を摘んでしまった。
(略)
 そもそも、米国の一部は、2014年までに沖縄からグアムへのトランスフォーメーションを自ら認めている。その国外移設の可能性を自ら排除したのは他でもない鳩山官邸なのである。
(略)
 つまり、沖縄の基地利権が、国外・県外という真っ当な鳩山首相の当初の政治決断を歪めてしまったのである。

 きょう(5月13日)、その国外移設先の候補であり、自ら誘致を決めているグァム・テニアンサイパンの知事が日本を訪れ、鳩山首相と面会する予定だった。

 だが、首相官邸は、その知事らの訪問を拒否している。理由はわからない。

http://diamond.jp/articles/-/8115

以下は、去年末に書かれた上久保誠人の記事。

 また、「米軍は普天間基地海兵隊のほとんどをグアムに移転させる計画だ」という情報も出てきた。これは自民党政権による従来の説明を根底から覆すものだ。

 この情報は「怪情報」の類ではなく、伊波市長ら宜野湾市役所が調査し、正式に公表したものだ。この調査が正確だとすれば、日本国内に普天間基地の代替施設を造る必要はなくなり、基地問題は即時解決である。民主党は従来の説明と調査結果の食い違いを厳しく指摘している。今後の更なる「情報公開」が期待される。
(略)
 その気になれば、日本は米国に対してドル基軸体制を揺さぶることも可能な強い交渉カードを持っているのだ。鳩山首相はそのことをよく自覚して、日米交渉に臨むべきだろう。

http://diamond.jp/articles/-/2769

以下は、一週間前のチャルマーズ・ジョンソン 日本政策研究所(JPRI)所長のインタビュー。

―日本では普天間問題で日米関係が悪化しているとして鳩山政権の支持率が急降下しているが。


 普天間問題で日米関係がぎくしゃくするのはまったく問題ではない。日本政府はどんどん主張して、米国政府をもっと困らせるべきだ。これまで日本は米国に対して何も言わず、従順すぎた。日本政府は米国の軍需産業のためではなく、沖縄の住民を守るために主張すべきなのだ。


―米軍基地の大半が沖縄に集中している状況をどう見るか。


 歴史的に沖縄住民は本土の人々からずっと差別され、今も続いている。それは、米軍基地の負担を沖縄に押しつけて済まそうとする日本の政府や国民の態度と無関係ではないのではないか。同じ日本人である沖縄住民が米軍からひどい扱いを受けているのに他の日本人はなぜ立ち上がろうとしないのか、私には理解できない。もし日本国民が結束して米国側に強く主張すれば、米国政府はそれを飲まざるを得ないだろう。


(略)


普天間問題を解決できなければ両政府がどんなに同盟の深化を強調してもあまり意味がない、との指摘もあるが。


 それは米国が軍事力優先の外交を展開しようとしているからである。一般の米国人は日本を守るために米国がどんな軍事力を持つべきかなどほとんど関心がないし、そもそも米国がなぜ日本を守らなければならないのか疑問に思っている。世界で2番目に豊かな国がなぜこれほど米国に頼らなければならないのか理解できない。それは日本人があまりに米国に従順で、イージーゴーイング(困難を避けて安易な方法を取る)だからではないか。

http://diamond.jp/articles/-/8060