『原稿零枚日記』

原稿零枚日記

原稿零枚日記

主人公が作家で、私小説を模した作りになっているのが、小川洋子の小説としてはめずらしい。
小説を書くから小説家なのか、小説家が書くから小説なのか、と、ときどき考えることがある。
私にとっては、少なくとも、小川洋子は、何を書いても小川洋子という信頼感がある。
いつだったか明石家さんまが、グルメレポートでラーメン屋を紹介したり、旅番組の温泉レポートをしたらどうなるか、という企画をテレビでやっていたが、この小説は、小川洋子私小説を書いたら、こんな大うそになっちゃいましたという、そんな感じ。
オビにある「ここにはひとつの嘘もない」って、それがもう嘘ですから。
最後の美術展の話は、こないだの、低調におわった横浜ビエンナーレなんかより、ずっと刺激的で楽しそう。