- 作者: 山内マリコ
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2012/08/24
- メディア: 単行本
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ベイビーズ・イン・ブラック THE STORY OF ASTRID KIRCHHERR & STUART SUTCLIFFE
- 作者: アルネ・ベルストルフ,岩本順子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/05/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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山内マリコのデビュー作は話題になっているだけあって面白いわ。というのは、わたしはこの本の主人公を椎名くんだと思って読んで、ああいう人物はたしかにいると思うけど(この時点でわなにはまってるかな?)、いままでの小説は拾い上げられなかったと思う。日記どころか手紙も書かないこのタイプが‘僕は・・・’とか私小説の声で語り始めたらそれは台無しなわけだし、そうなるともうお手上げっていうのが日本の小説だったのかな。
しかし、椎名くんみたいな、男から見ても、ああいうぐあいに生きられたらいいのになと思うタイプは、自分の青春時代を思い出しても確かにいて、それでそいつは確かに女にもてる。女にもてる男が小説の主人公になるのは、むしろ当然なのだけれど、それを描く技術を小説は獲得してこなかった。明治の、坪内逍遙、二葉亭四迷以来初めて、ここに山内マリコがその技術を発明したわけ。これはちょっとした発明だし、かなり手が込んでる。
このもてる男をめぐっての様々な女たちの反応が実に面白い。
これは、こないだ「夢売るふたり」をめぐる、糸井重里と西川美和の対談の冒頭にあったのだけれど、「二か三か」という話で、糸井重里が「‘二’の人は二十四時間、何があっても‘二’ですから」というと、西川美和は「それはほんと悲しいくらいにそうですよね」と言っていた。
この「悲しいくらい」という表現がおかしくて「女から見て‘悲しい二の人’っているんだな」と思ったわけだった。
今までの小説って、この‘悲しい二’が主人公になることが多かったと思う。それはほんとは女にもてないんだけど、男は(もしかしたら女も)そういうこと気がついてなかった。
椎名くんは‘悲しい二’じゃないわけ。その流れで、糸井重里がその対談のなかで奇しくも言っていたことをここで言いたい気持になるけれど、それは面白くないと思うのでやめる。
余談ながら、この小説を読み進むうちに、「あれ?これ富山だろ」とわかってしまった。たまたまわたしが富山に長く住んでいたし、海があって、雪が積もって、ロシア人がいて、となると、すくなくとも奈良とかじゃないわけだけど、地方はどこもいっしょだみたいな話は私は信じないな。
もう一冊の『Baby’s in Black』は、ドイツの漫画で、ビートルズのデビュー前のメンバー、スチュワート・サトクリフの実話。サトクリフが死んだ時、ジョン・レノンは号泣したと聞いた。
なにしろ世界中の人が知っている人たちを主人公に据えるわけだから、こうしてミニマリズム寸前にまで削ぎ落とした感じで淡々と描くやり方が成功していると思う。