「ランナウェイ/逃亡者」

knockeye2013-10-08

 ロバート・レッドフォード監督・主演「ランナウェイ/逃亡者」をみてきました。この映画はたぶんそんなに話題になっていない映画と思うので、臆面もなくいち推しさせていただきたい。
 最近、どちらかというと裏方にまわっている感があるロバート・レッドフォードだけれど、この映画ではあえて主演っていうのは、アメリカの若者がかっこよかった時代、若者であることが価値があった時代に、時代のアイコンとまでいえるかどうかしらないけれど、その時代のトップスターだった彼が、今という時代の空気の底の方に、実は、ちょっと別の何かがありうるっていう、そういうことを表現するのに、うってつけだったからだと思う。
 「明日に向かって撃て」とか70年代頃の二枚目ではもちろんもうないけれど、その年の取り方が,この映画では,決定的に効いている。
 その意味では、共演のスーザン・サランドンニック・ノルティクリス・クーパーリチャード・ジェンキンスジュリー・クリスティブレンダン・グリーソン、などなど、豪華なキャストが演じる、今はふつうのおじさん、おばさんとして暮らしているひとたちが、ひとつの事件をきっかけに、ひそかにすみやかに、ネットワークをつなげていく感じが、すごくスリリングで、フィクションとはいいながら、実在の事件をもとにしているのだし、こんなことありえないよね、と笑ってしまう人の方が、むしろ、のんきな情弱だと、そう思わせるだけの説得力がやっぱりあるわけだった。全然例は違うけど、たとえば、サマセット・モームがじつはイギリスの諜報部員だったりとか、そういうことは奇想天外でもなんでもないのだし。
 そういう意味で「Company you Keep」っていう原題のcompanyの部分が胸を熱くする。パンフレットに、この映画に登場する‘ウェザーマン’という過激派グループの、元メンバーで,今は大学教授をしている女性のインタビューが載っていたけれど、たしかに、ノスタルジーが,この映画を支配する基本的な感情だといっていいかもしれない。リチャード・ジェンキンスが演じる大学教授が、「それはベルボトムの時代の話だ」っていうところがあって思わず笑った。ベルボトム和製英語じゃないっていうことも発見したわけだけれど。
 映画としては、はらはらどきどきの上質の社会派エンターティメントとしてすごくよい出来映えだと思う。でも、どんな娯楽作品も,時代と無関係ではないし、この時代に、「ゼロ・ダーク・サーティー」ではなく、こういう切り口から映画を作るのが、ロバート・レッドフォードらしいなっていう、気骨を感じさせる。
 companyっていう英語の感じは、日本のことばには訳しにくいのかもしれないと思った。友情というと、ちょっと情に流される感じだし、もっと個人の信念とか主義にかかわっていて、それを共有しているという感じなんだろうと思った。単に貸し借りでなく、自分の存在証明にかかわる、個人と社会のつながりの根幹にcompanyっていう感じがあって、日本では、そういう個人の信念を共有するっていう意識が希薄であるために、信頼できる政治家が生まれないんじゃないかと思う。