「ヌイグルマーZ」

knockeye2014-02-16

 井口昇の特撮がチャチであることは、彼の映画にとっては「文体」なんだと思う。
 70年代、80年代の子供向けテレビ番組で、盛んに用いられてきたチャチな特撮は、その当時は、たとえば、「アバター」だったり、「アベンジャーズ」だったりでありたかったけれど、技術の限界がそれを許さなかっただけだろうが、井口昇の映画にとっては、それは文体なのである。
 今回の「宇宙から飛来した綿状生命体が宿った」ぬいぐるみ‘ブースケ’が、セス・マクファーレンの「ted」みたいに表情ゆたかだったら、おそらくぶちこわしだろう。NHK人形劇程度の動きだからいいのだ。イメージがむしろ力強くなる。
 こういう、「あえて筆触を残す」というか、ゆがみだったり、塗り残しだったりを愛する感性は、案外、日本人だけのものではないと思う。
 井口昇はこれを意図的にやっているので、「わびたるはよし、わばしたるはわろし」と千利休がいったとおり、作品によってはわざとらしくなることがあるが、今回の「ヌイグルマーZ」は、いい感じに仕上がっている。
 先週にひきつづき、二週連続の大雪に見舞われた首都圏であったが、私は今回もまた映画。横浜ブルグ13で、だけど、さすがに「レイトショーは中止します」の張り紙が出てたな。
 盛大に人が死ぬ映画だったが、その命の軽さには、なにかしら厳粛な気持ちにさせられた。劇場は異様なほどマナーがよかった。しんとして誰も食べもしゃべりもしない。たぶん、「ヤンキー」は引き寄せられない映画なんだろう。オタクはマナーがよい。他人に関わりたくないから。
 中川翔子のキャラクターと、武田梨奈のアクションなしでは成立しなかったと思うけど、それでも、井口昇の世界観が悪夢的で、これはハリウッドでは誰も作れないだろうし、日本以外で理解できる観客がどれくらいいるかなとほくそえむ気分でもあった。
 私に言わせればこれは名作です。と同時に、こういう映画が成立することに、社会の成熟度を感じる。都知事選をめぐる議論とか、慰安婦のなんやかんやとかは、書いていても、子供に物言ってる様な気分になるのだが、この「ヌイグルマーZ」をちゃんと鑑賞できるのが大人というものです、私に言わせれば。