ヘレン・シャルフベック 魂のまなざし

knockeye2015-07-03

 東京藝術大学大学美術館に(発見したんだけど、この‘ 大学大学 ’美術館の英語表記は“ The University Art Museum - Tokyo University of the Arts ”、英語にすると“ART”もふたつだよ)、ヘレン・シャルフベック展を観にいった。
 フィンランドの女流画家というと、トーヴェ・ヤンソンしか知らないけど、本国では、ヘレン・シャルフベックの方が、トーヴェ・ヤンソンより高名らしい。トーヴェ・ヤンソンは、ムーミンがヒットして、油絵はあまり描かなくなってしまったけど、第二次大戦終結の前後、窓辺に立つ女性の後ろ姿を描いた絵はすごくよかった。もちろん、ムーミンとそれとどっち取る?、みたいな究極の選択を言われても困るけれど。
 ヘレン・シャルフベックは、まだ3歳の時に階段から落ちて、一生を車椅子でおくることになる。3歳の子供が階段から落ちる、そんなことで、他愛もなく、一生の制限を受けることもある。シャルフベック自身は、それについてどんな思いでいたかわからないが、ただ、こんな逸話が残っている。
 絵の才能が見出されて、フランスに留学していた頃、ある英国人画家と交わした結婚の約束を、彼女が一時帰国している間に、たった一通の手紙で反故にされてしまう。この英国人画家が誰なのか今も分からないそうだ。何故なら、彼に関する手紙も写真も、彼女自身が破棄しただけでなく、友人たちにも、手許にある、彼の名前のある全てのものも捨ててくれるように頼んだから。
 このとき描いた《快復期》は、今でもヘレン・シャルフベックの重要な一枚と見なされている。

 そうした私小説的な背景を知らなくても、よい絵だと思う。テクニックはまだアカデミックかもしれないけれど、モチーフを観る目の個性が際立っている。

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 絵の前で立ち止まってしまったのは、この《ロマの女》。

 ふくよかだが重い量感、すばやく、なめらかに走る、ヒリヒリするような赤い線、明るい暖色の背景、陰になった顔。豊かな両腕が抱える何もない空間に、乳房が押しつぶされている。暖かで悲しい。
 「私の冬をしずかに充たしてくれる何かを、私は鏡の中に見つけました。それは、私の最も美しい自画像になるでしょう。あなたはそう思わないでしょう。そして誰も。」(1921.9.26)
 「おそらく、芸術家は自分の中に入り込むことしかできない、そう思う。固くて氷のような、つまりただの私。…私はこれらの絵がひどく痛ましくなってきたので、投げ捨てました。…帰りたくなった…どうして私は、作品をダメにするほど強く全てのことに反応してしまうのだろう?。拭き取らなくてはならないほど、乱暴に描きすぎてしまう。」(1921.10.23 ?)
 「私の肖像画は、死のような表情をしているでしょう。かくして、画家は魂を暴く。でも仕方ない。私はもっと恐ろしく、もっと強い表現を求めているのです。」(1921.12.4)
 上野では、7月26日までと会期が短いので、お見逃しのないように。その後、仙台、広島、葉山に巡回します。
ヘレン・シャルフベック −魂のまなざし フィンランドを生きた女性画家の軌跡 |2015.6/2(火) 〜 7/26(日)東京藝術大学大学美術館にて開催 ヘレン・シャルフベック −魂のまなざし フィンランドを生きた女性画家の軌跡 |2015.6/2(火) 〜 7/26(日)東京藝術大学大学美術館にて開催