月岡芳年

 

 中村橋にある練馬区立美術館で月岡芳年の展覧会が開かれている。

 月岡芳年は、太田記念美術館で《うぶめ》も観たし、町田の国際版画美術館でも、魁題百撰相をコンプリートしているし、練馬まで足を運ぶまでもなくはないかと迷いはしたが、やっぱり、月岡芳年ってひとは、江戸と明治の両方を経験した絵描きのなかで群を抜いて素晴らしい。狩野芳崖とこの人が双璧じゃないだろうか。猿田彦を描いた肉筆画を観てそう思った。西洋的な陰影によるボリュームの付け方を、あっけないほどあっさり手中にしながら、「だから何?」くらいな感じは、師匠の歌川国芳が取り組んでいた西洋画研究の成果を受け継いでいるだろう。もちろん、芳年自身の才能が最も大きいとしても、江戸の浮世絵全体が持っていた画題の自由さが、彼に明治を描かせるんだと思う。
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 後に「血みどろ芳年」と言われる残酷絵も展示されていた。「魁題百撰相」は、上野戦争を直接取材したと言われている。だから、血がリアルで、そして、浮世絵師として、それをリアルに描くことにためらいがない。

 会場に子連れ出来ているお父さんがいた。まだ、幼稚園にも上がっていない年齢の女の子に「お父ちゃんはこの絵が好き」とか言って、血みどろの絵を見せていたが、さすがに幼児虐待レベルの行為かと思えた。

 正宗白鳥は、子供の頃に見た地獄絵図が一生のトラウマになったみたいだったが、こういう絵を親に見せられるという体験は、子供の心に、よくなさそう。展示室は分けてあったし、入り口には注意書きもあったが。