歌川国芳

 太田記念美術館歌川国芳展。

 この美術館は、ふだん靴を脱いであがるのだけれど、最近、国芳の人気は高く、混雑するため、今日は靴でよいことになっていた。
 たぶん、江戸の浮世絵師のなかでも、もっとも江戸っ子らしいのが国芳だろう。
 国芳の絵を見る楽しみは、そういう江戸っ子見たさとでもいうべき心理と大部分かさなっている。
 国芳の絵には、‘江戸っ子’という思想を感じる。生活に根付いた思想。江戸っ子の生活が描かれている、なんていう冷たい視線ではなく、生き方の裏側にある‘イズム’を、絵が共有している。
 国芳の絵にいつもわくわくさせられるのは、その絵が、結論としてでなく、問いかけとしてこちらに向けられているからだろう。発句として見事なので、思わず下の句に思いをめぐらせてしまうのだ。 
 江戸っ子に入れ墨を大流行させたのも、国芳水滸伝シリーズだったそうだ。
 そういうことに眉をひそめる鼻持ちならないスノビズムは、いつの世にも存在するとしても、それを野暮だと批判する健康的な庶民性くらいは、すくなくともあっていいのではないか。
 胸くその悪い、野暮連中が、はかりごとをめぐらして悦に入っている、そんな世の中がいつまで続くのかと思うとため息が出る。
 月岡芳年が、師匠を描いた肉筆の肖像画も展示されていた。その膝元には猫が一匹。国芳には猫がよくにあう。
 「猫の当て字」シリーズの、今回は、「かつお」の絵はがきがあったので手に入れた。「金魚づくし」のA4くらいのサイズのものも販売されていて、ちょっと心が動いた。