月岡芳年の「うぶめ」、篠山紀信「写真力」

knockeye2012-10-15

 日曜日は秋の雨。まだからだが完全ではないので出掛けなかったけれど、土曜日、渋谷で「桐島、部活やめるってよ」を観た朝、原宿の太田記念美術館月岡芳年を観てきた。太田記念美術館のばあい、来場者が多いか少ないかがわかりやすいのは、ここはふだん靴を脱いでスリッパに履き替えることになっているのだけれど、来場者が多いと靴箱が足りなくなるので、‘靴のままでどうぞ’というはり紙が出る。今回はそのはり紙。
 これはけっこう大規模な回顧展のようで、前後期にわけて展示換えをする。もちろん展示替えの後にも来るつもりだし、ぎっくり腰さえやらなければ、たぶん先週には来ていたはず。で、なんでこんなことを書いているかというと、絹本着色の肉筆画<うぶめ>がこの日までだったの。危なかった。
 鬼気迫る幽霊の後ろ姿、これは師匠の国芳にもぜったい描けない、と思うのは、江戸という時代が滅んだからこそこの絵が描けると思ったからだが。
 観られなかった人は残念でしたね。観られた人は幸運でした。鬼女、狂女、幽霊の絵には有名なものも多くあるけれど、曾我蕭白も、円山応挙も、この芳年の狂気、かまたは、恐怖を前にしては、凍りつくのではないか。芳年は、現にこれを見たと信じたくなる。

 映画を観た後は、初台で篠山紀信の写真展「写真力」。
 山口百恵後藤久美子宮沢りえ高岡早紀樋口可南子、AKB48、満島ひかり・・・。こういう写真が壁一面の大きさに引き伸ばされて、ばーんと展示されているのは壮観。
 こういう常設の美術館があってもいいと前々から思っている。いいグラビア写真をいいプリントで大きく展示する美術館。もともと印刷媒体にのって無限に流通する無数のイメージを美術館という場にせき止めてみる。たとえばいまだったら、吉木りさ写真展だよね。フェルメール青いターバンの少女の隣の展示室で吉木りさのくびれ。浮世絵を美術館で見るのもじつは似たようなことなんだしね。
 今回おもしろいなと思ったのは、ミュージアムショップで、篠山紀信のサイン入り激写とか、サンタフェとかをみんな手に取ってみてるわけ。まるで一昔前の古本屋みたいな感じになっちゃってる、と思ったのは、そんな古本屋を知ってるオレだけか。

 オペラシティアートギャラリーは、常設展に特徴がある。巨匠の名作とかじゃなくあまり知らない比較的最近の画家の絵が多い。寺田小太郎という人のコレクションが母体になっているそうだが、趣味が合うというか、波長が合う。今回の展示では、野坂徹夫というひとの一連の水彩画、とくに<陽のあたる家>がよかった。