『ドローン・オブ・ウォー』正義はもちろん感情です

ドローン・オブ・ウォー(字幕版)

ドローン・オブ・ウォー(字幕版)

  • 発売日: 2017/07/21
  • メディア: Prime Video

 観のがした映画を配信で観ている。
 イーサン・ホークの『ドローン・オブ・ウォー』。原題は「Good Kill」。
 対テロ戦争というのをジョージ・W・ブッシュが始めてしまったが、考えてみると、この戦争は、旧日本陸軍が始めた日中戦争に似てる。敵の姿がはっきりしないし、ゴールも見えない。
 そういう戦争に自国民の血を流し続けるについての批判をおそれて、ドローンの活用は増えていたんじゃないかと思う。実態は知らないが、当時のオバマ大統領の娘さんが、確か、初デートにでかけるというときのインタビューで、記者に「心配じゃないですか?」みたいな質問をされたんだろう。オバマ大統領は「わたしにはドローンがある」とジョークで返したという記事を読んだ記憶がある。
 ドローンは無人機なので米兵士の被害は絶対に出ない。アメリカ国民の命は危険にさらされない。だから精度の高い攻撃ができる、かというと、実際にはかなりの数の民間人が巻き添え死していると報告されている。そもそも「対テロ戦争」のよって立つ論理が、「テロ行為を未然に防ぐ先制攻撃」なわけで、そうなると、ふつうの人を未来のテロリストと断定するかどうかは、CIAの匙加減ひとつということになる。

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 子供が巻き添えで死ぬシーンも描かれていた。この映画で、イーサン・ホークが演じているのは、そういうドローンによる攻撃の引き金を引く兵士。ラスベガスの空軍基地に設えられたコンテナのような箱の中で、アフガニスタン上空をとぶドローンを操作している。
 ドローンが映し出す映像の実態は、一部の米軍関係者以外知りえない、ってあたりまえのことに今更気が付いた。ときどきニュース映像で紹介されているのがそのままだと思ってしまっていた。実際にはもっと精度が高いと考えて間違いないだろう。
 空調の利いた部屋にいながら、そういう高精細な映像のなかの人を殺す作業のしんどさは、実際の戦場に赴くしんどさとは別のもので、なかなか人は理解してくれない。規則的な勤務が終われば、ベガスの繁華街を抜けて、郊外の自宅に帰る。
 戦場の空を飛んでいるときよりはるかに安全で、家族のそばにもいられるにもかかわらず、夫婦の仲はぎくしゃくしはじめる。従軍して離れていたころの方が身近に感じていたと感じ始める。
 成果確認といっていたか、成果評価といったか、爆撃の結果を確認する作業をしなければならない。この作業がきつい。何人死んだかを数えなければならないが、ばらばらになっていて数えるのが難しい。
 正義って感情的なものだと思った。ドローンに関しては、空軍とCIAで指導権争いがあったそうだ。この映画でも途中からCIAの指示で動くことになる。空軍は交戦規定を守ろうとするが、CIAはそんなことは知ったことではない。現場から確認をもとめると、いちおう、理論的な答えを返してくる。「将来、アメリカを危険にさらす可能性がある」とか。
 正しいか間違いかはともかくとして、理論的か感情的かでいえば、CIAの方が理論的。交戦規定を守ろうとするのは理論的ではない。というのは、交戦規定そのものが誰かが作ったものには違いなくて、それが変更されるってことはもちろんありうることだからだ。しかし、釈然とはしない。
 子供が巻き添えになった時もCIAはそんなこと気にもかけない。軍の上官はこういう。
「子供がそこにいることをわれわれはしらなかった。しかし、9.11の飛行機の中にこどもがいることを奴らは確実に知っていたんだ」と。
 これなんかは、正義という感情に理論の側から歩み寄った言葉だ。理論の側はいくらでも変容が可能だということなんだろう。
 主人公は最終的には感情に従うことに決める。その点は、じつにアメリカ映画で、最後はなんとなく『シェーン』みたいなかんじさえ漂わせた。
 イーサン・ホーク民主党支持者を公言しているが、こういうタイムリーな話題を高いレベルで映画にするアメリカ映画は、いろいろ批判されながらもやはり健全だと思える。グアンタナモ収容所についても言及があった。
 正義は感情だとして、それは感情の中でも同情的なものだろう。論語に「義を見てせざるは勇なきなり」というんだけど、「義をなさざるは勇なきなり」とはいっていない。その前段は「その鬼にあらずしてこれを祭るはへつらうなり」で、これは「自分の先祖でもないものを祭るのはへつらいだ」ということだそうだ。つまり「関係ないことに首を突っ込むな」といってるわけで、それに「義を見て・・・」とつづく。「関係ないことに首を突っ込むな」といいつつ、そこに義を見ればそれを行えといっている。孔子にとって義は見るものだったことがわかる。「関係ないことに手を出すな、でも、義を見たらやれ」といってるわけで、あくまで実践家であった孔子らしい言葉だと思う。


映画『ドローン・オブ・ウォー』予告