「0.5 ミリ」、「百円の恋」

knockeye2015-03-12

 「0.5ミリ」と「百円の恋」てふ、安藤サクラ主演の映画ふたつ、ジャック&ベティでやってるときにも気になってはいたのだけれど、みょうなぐあいに題名もかぶってるし、どっちみるべきかなぁとか迷ううちに見逃したのを、アミュー厚木でまたやってくれてたんだよね。それで、このさい、まとめて観たのです。
 迷うこともなかったようなものなんだけど、一日二本映画を観ると、けっこう目につらいので、できれば避けたいと思ってて、ふだんは観ても2本までと決めてるんだけど、後から気がつくと、「0.5ミリ」は、196分、3時間16分だったんだよね。3時間の「KANO」で逡巡していたのは何だったんだつうことになるんだけど、家から近いと、勢いがつくことはあるみたい。
 その「0.5ミリ」なんだけど、これは監督が安藤サクラのお姉さん、安藤桃子という、なんかファミリービジネス的な空気もただよう。お父さんの奥田英二が監督して、緒形拳が主演した「長い散歩」という映画があったんだけど、これの脚本が安藤和津で、「気持ちは分かるけど」という、観客の優しさが必要な映画だった記憶があるので、どうなるかなと思いつつ観たのだけれど、このファミリーの空気感は残しつつ、変に洗練されるという方向ではなく、サービス満載という方向にプロ意識を鍛えているようで、この196分には、それなりに納得させられた。
 「0.5ミリ」はどういう映画かとひとことでいえば、安藤サクラが、椿三十郎なんだね。ただし、この椿三十郎は用心棒ではなくて、さすらいの家政婦さん。凄腕のヘルパーさんで、老人介護の技がハンパないわけ。
 あながちファンタジーとまで言えないと思った。今という時代、女性の貧困層が増えているといわれる一方で、ホリエモンのところで、家事を外注すべきかどうかが議論になったりしたように、女性の社会進出、少子高齢化核家族化が進んだ結果、家事が賃金労働とならざるえなくなっている。家事が第何次産業かしらないけど、資本主義社会の中で、それに見合う対価を求め始めている。
 こないだ、武井壮がこどものころ、家の前からゴミ集積所までゴミを運ぶのを一軒につき月500円で170軒やっていたという話を聞いたけれど、今それがあったらやってほしいと思いませんか?。その着眼点がすごく面白いと思った。武井壮ではなくて、その安藤桃子の。
 それがなぜ3時間を超えるのかというと、たぶん西川美和なら、ばっさり切るところがいっぱいある気がするが、安藤桃子は、役者の生態に尽きない興味があるのか、好き放題やらせて飽きないらしい。坂田利夫のぼけ老人はどの程度アドリブなんだろう?。坂田利夫をテレビで見慣れている関西人としては、アホの坂田が随所に顔を出していたように見えたのだが。
 そして、津川雅彦のエピソードがやはりすごくよかった。伊丹十三の映画に出ていた頃からずいぶん年をとったなぁと思った。あたりまえなんだけれど。
 草笛光子を観るときの顔なんて、坂田利夫のとことはまったく違う芝居を見せられている気がした。芝居の意味が違うって言うか。だから、この安藤桃子てふ監督は、坂田利夫のあのエピソードと、津川雅彦のエピソードを同じ映画に詰め込んじゃうのがすごいと思った。どっちもいいんだけど、違うメソッドっていうか、ふつうは同じ映画にしないと思う。それを地続きにする力業は私は好きです。
 「0.5ミリ」というタイトルは、津川雅彦の変な演説からとられている。あの演説は「ウゲ」って拒否反応おこすひともいると思うけど、あれも相当な力業だとおもった。だって、さっきまで風呂場のぞいてたのに。
 ただ、それを聴いて安藤サクラが泣くのは、映画としての意味をとりかねた。あそこは笑うか、もし泣くなら観客が笑えるように泣くか、だと思ったけど。でも、首をかしげたのはそこくらいかな。
 それから、高知のロケーションや、道具立てもすごくよかった。津川雅彦が使っているカセットテープとか鞄とか、坂田利夫のいすず177クーペも。
 なんか七〇年代の映画みたいなかんじだった。サービス精神てんこ盛りで。3時間超えちゃったけど、まあ出しちゃえってことでしょうな。
 まあ、これは余談だが、久しぶりに坂田利夫の顔を見て、この人やっぱりスターなんだなと関西の外から見てそう思った。ダウンタウンがまだ駆け出しの頃に、漫才の舞台袖で坂田利夫が待っていて、「おまえらオモロイな」と真顔で言ったそうなのだ。ただ、そのときのかっこうがこれだったので↓

(「おまえの方がオモロイやろ」)と心の中で突っ込んだという話だ。
 さて、目が死にそうになりながら、「百円の恋」を観た。
 これは、第一回松田優作賞グランプリを獲得した脚本なんだそうだが、この賞の選考をしている丸山昇一という人は『松田優作+丸山昇一 未発表シナリオ集』という本を出している。ずっと松田優作のブレーンのような立場にいた脚本家だったので、この人が選ぶ「松田優作賞」ということなら、まずいものは選ばないだろうという信頼感はあった。
 ただ、女性のボクサーというと、クリント・イーストウッドの「ミリオンダラーベイビー」があるので、どうなんだろうなと危惧もしたけど、そんな心配は要らなかった。
 安藤サクラは、上の「0.5ミリ」と合わせて、ハードボイルド路線が定着してしまうおそれアリ。100円ショップで働いている32歳の処女っていうハードボイルドは、すごい切り口だわ。
 それに、この脚本のよいところは、ちょい役からみんなどこか見せ場がある。
 この映画は10年後くらいに、伝説になってる可能性あるな。そのころの映画好きが「公開当時はそんなに話題にならなかったなんて信じられない」とか言ってるんじゃないの、きっと。「幕末太陽傳」みたいに。
 安藤サクラは、なんというか、味がある顔だけど、いわゆる‘傾城の美女’ってわけじゃないじゃない?。もっとはっきりいうと、橋本環奈がライバル視するタイプじゃないじゃない?。だけど、この映画のこの役は、安藤サクラじゃなきゃダメだったんじゃないかと思うわけ。
 それでこないだから言ってるけど、たとえば「神様はバリにいる」の主役は尾野真千子じゃなくて近藤春菜であるべきだったし、「白雪姫殺人事件」の主役は、井上真央ではなくて黒沢かずこであるべきだったと思う。その辺のキャスティング考えてほしいなと思います。