『南極大陸単独横断行』

南極大陸単独横断行 (講談社文庫)
植村直己犬ぞりのときもそうだが、こういう極地探検ものを読むと食い物がすごく旨そうに思えてしまう。この横断行で大場満郎が主食にしている「ペミカン」もそう。牛肉、にんじん、グリーンピース、ゴボウなどを細かく砕いて乾燥させ真空パックしたものだそうだ。果たしてこれは旨いか?また、北極横断のときは棒状のバターを一日一本丸かじりしていたとか。たぶん、味云々じゃなく、それを食べないと生命を維持できないんだろう。そして、それは最高に旨いんだろうなぁと思う。
ものを食うことは生きる根源なんだから、食うものが旨いのは、生きる喜びそのものなんだろう。その意味で、美食っていうのも、金持ちにとっては、たぶんホントに旨いんだろうね。「金持ちになったぞーっ」という喜びである。貧乏人があんなもん食って旨いとか言うのはウソだと思う。だって貧乏人の場合、高価な美食が生存を脅かすおそれがあるもんね。
だけど、このペミカン。安上がりなグルメかというとそうではない。南極横断には準備だけで、7000万円の資金がかかっている。そういう資金集めの部分も興味深い。

しかし、資金集めに苦労していて、だんだんと「どんなお金でもいい」と思うのは間違いだと気づいた。
(略)
南極に行くお金が誰から出たのか、どういう気持ちででたのか分からないと、いざ現場に行っても力がでない。そのお金で相手はどういうことを私に望んでいるのか、それを聞いて、どういうお金なのか知っていないと、感謝の気持ちを持つことが難しくなってくる。するとそれは知らず知らず傲慢な姿勢に通じてしまう。
簡単な話、どこかの大企業が目の前に一億円ポンと積んで、
「北極にもう一回行ってくれ」
と頼んできても、行けない。それで行けば絶対に失敗する。

セイコー大場満郎の北極行のために開発したランドマスター北極スペシャル。磁石が使えない極地のために、24時間で一周する針を設けて、太陽の位置で方角が分かるようになっている。
面白いのは、資金作りに関して

モノを作っている会社の人ほど、私の冒険をよく理解してくれる。やはり、冒険とモノ作りはどこか似ているのかも知れない。

のだそうだ。
この辺が単なる観光客と冒険家の違いだろうか。でも、ツーリングのときでも、「モノを作ってるんだ」という感じは、頭の片隅に置いておきたい。