非正規への差別意識

12月15日に録画しておいた、非正規雇用がテーマのNHKの番組を見た。

驚いてしまったのだけれど、手取り13万とかで働いていて、「契約切り」即「ホームレス」という派遣社員がいる。
事情はいろいろだろうが、「なんでそんな給料で働いているの?」というのが実感だ。
私も派遣社員歴は長かったけれど、そんな給料では働いたことがない。非正規雇用は雇用調整弁なのだから、高卒や大卒の初任給などよりは高い給料を貰わないとやってられない。それはまたお互い暗黙の了解事項だったはずなのだけれど、派遣が合法になることで企業側だけを利する結果になったのではないかという感を強くした。
派遣社員は、employee、employerどちら側の事情からも、なるべく早く辞めるための働き方なのである。いわば「働く失業者」なのだ。
番組中、私が違和感を覚えたのは、非正規雇用職業訓練というテーマになったとき、企業の立場を代弁する経済同友会門脇英晴という人が、いかにも非正規雇用のスキルが正規雇用に劣っているかのように話していたことだ。
おそらく、視聴者にそういう印象を与えたかったのだろうが、番組の冒頭にも触れられていたように、今、労働者全体の3分の1が非正規雇用になっている。その意味を考えてもらいたい。正規が非正規に置き換えられているだけなのだ。正規と非正規を分けているのはスキルの違いではない。経営側が雇用に対する態度を変えただけなのである。
今回の事態を考えても分かるはずだ。問題だったのはむしろ経営者のスキルではないのか。能天気なものである。
能天気なのはまあいいとして、派生的で深刻な問題は、そういう言動の裏側に非正規への差別意識が露骨にのぞいていることだ。雇用調整弁として使い捨てしたのは自分たちの都合ではないか。それを使い捨てられた側に問題があったという方向に世論をミスリードしようとする戦術に呆れる。
反貧困ネットワークの事務局長をしている湯浅誠という人はこういっていた。
「大企業にすごいことをやってもらうということをそんなに期待しているわけではないんですが、もう一度あれですが、今、大企業の人たちを中心に切られているわけですね。トヨタにしろ、キャノンにしろ。社会全体の人をどうこうという以前に、せめて自分のところで働いている非正規の人たちを、この間、史上最高の利益を更新してきたのだったら、それを守れないのか、その人たちを年末の寒空の下に放り出す、せめてそれをやらないでおくという選択肢はないのかと、いうことなんですね。・・・
これから変わっていくんじゃないかというレベルじゃなくてですね。やっぱり、今変わらなきゃいけないんじゃないですか。国際競争力も大事だが、そのためには一番底辺の人は死んでもしょうがないんだと、こういう経営ではいけない、それは社会の一員としていけないんだと、ということをちゃんと、他の経営者の方にですね、分かってもらっていただきたいと思います。」
他の経営者の方に・・・というくだりは、助け舟をだしてくれたわけだ。
経営側がこれに答えられるはずはないので、一般論として、将来、あたらしい職を創造していかなければならず、そのために今の仕組みを変えなければならないという、もはや聞き飽きた話に論点をすりかえた。困ったときだけ改革というのである。少し上向くと、改革が行き過ぎたという。改革は彼らにとっては逃げ口上でしかない。
是非はともかくとして、ホリエモンをめぐる騒動で、新規参入者が出現してきたとき、既得権益側が示すすさまじい拒否反応を私たちはつぶさに見たと思う。
新しい産業が必要だといいながら、事実、新しい産業が生まれれば、それをつぶそうとするのが彼らだと思う。
日本の環境技術は世界でもトップクラスで、これを生かして新しい産業をという話は、遅くとも80年代くらいから題目のように唱えられ続けているが、実際には道路や橋を作る土建事業以外に金をまわさないのが自民党の政治だ。

「能力開発の事業というのは、今まで雇用保険特別会計でいろいろメニューを作ってやってきたんですが、すぐ成果はどうだといわれるとですね、なかなかつらいところがありましてですね。橋造ったり道路造ったりと違って目に見えるものが見えにくいんでですね。そういうのは無駄じゃないかといわれてけっこう潰してきたのがあるんですね。」
大村秀章厚生労働副大臣の弁。こういうのを語るに落ちるというのだろう。
今朝の新聞によると

 

大量の人員削減を進めるトヨタ自動車キヤノンなど日本を代表する大手製造業16社で、利益から配当金などを引いた2008年9月末の内部留保合計額が、景気回復前の02年3月期末から倍増し空前の約33兆6000億円に達したことが23日、共同通信社の集計で明らかになった。

 

過去の好景気による利益が、人件費に回らず巨額余資として企業内部に積み上がった格好。08年4月以降に判明した各社の人員削減合計数は約4万人に上るが世界的な景気後退に直面する企業は財務基盤の強化を優先、人員削減を中心とするリストラは今後も加速する見通し。

だそうだ。
蟹工船」がベストセラーになる。そのリアリティーがじわりと湧いてきた。はじめこのニュースを聞いたときは冗談だろうと思ったのだけれど。