朗読者

朗読者 (新潮文庫)

朗読者 (新潮文庫)

ネットで本を買うようになってあまり本屋には出かけなくなったが、この『朗読者』は本屋で手にとったもの。
平積みされていたのは今度映画が公開されるかららしい。
先日、北朝鮮拉致被害者金賢姫元死刑囚が対面していたのを見て、大韓航空機爆破事件のような大量殺戮の責任を引き受けるには一人の人間の感情は容量が少なすぎるのではないかと思った。感情でカタルシスを得ようとしてもそれは不可能だと思う。
かつて日本人が南京や重慶、その他にも戦場となった地域でやったこと、また、沖縄や北海道で先住民に対してやったことはおぞましすぎて、それについて考えると、若いころから不安な気持ちにさせられてきたものだった。
それについて責任を感じたりすることは私には不可能だと気が付いたのでさえ実に最近のことにすぎない。
ただ、その問題の根っこにあるものは、まだどこかに生き続けていて、しかも、正体がわからない。
だから、そいつはもしかしたら自分の中にもいるかもしれない。そのことは常に警戒していなければならないと思っている。
『朗読者』が世界的にベストセラーになったのも、どんなに大きな問題を背景にしても、ひとのこころをとらえるのはやはり小さな心の襞だということがあると思う。
もちろん、事実は受け止めなければならない。そこから目を背けようとするのは、それ以前の問題だ。