漁船衝突の映像流出

 日本の官僚は優秀だなどという人がいるが、何を根拠に言っているのか?全く理解できない。
 今回の尖閣海域の映像流出についても、中国人船長を釈放してしまったあとに、あんな情報をリークしても、何の意味もない。
 逆に言えば、中国人船長を釈放しなければ、あの映像は有効なカードになったはずなのである。
 つまり、あの釈放がそもそもの大失態だった。それは誰でもわかる。
 問題は、‘誰が釈放したか’だが、以前にも書いたとおり、前原誠司外相とヒラリー・クリントン国務長官が「尖閣諸島日米安保の範囲内」と発表したのが9月23日で、このとき、前原外相は、「国内法で粛々と対応する」と発言している。
 当然、このときの前原誠司に中国人船長を釈放する気などさらさらない。
 ところが、那覇地検が中国人船長を釈放したのは、その翌日、9月24日なのである。
 後の新聞報道で、その前日、9月23日に‘那覇地検が外務省側から日中関係について意見聴取していたこと’が明らかになっている。
 那覇地検と外務省の力関係がどうなっているかわからないものの、だいたい想像がつくのではないか。
 日米外相が会談して、「尖閣に領土問題は存在しない」、「国内法で粛々と対応する」と発表したその同じ日に、外務省の官僚が、那覇地検に何を吹き込んだのか、釈放という結果から、すくなくとも、それが日米外相会談に沿った内容ではなかったことが容易に想像できる。
 つまり、中国人船長釈放は、外務官僚と検察官僚の暴走であり、そして誰の目にも明らかな大失態なのである。
 最近の報道をみていると、尖閣を巡る一連のことで、民主党の外交能力を批判する記事ばかりだが(また例の゙格差社会’同様、マスコミが右向けといえば右向く国民も多いようだが)、冷静に事実をみていけば、ここでも小泉政権以来の、官僚vs.政治という対立がくりかえされていることがわかる。
 うがった見方をすれば、あの日米外相会談があったからこそ、外務官僚が勇み足ぎみに事を進めたとさえ見える。
 思い返していただきたいのは、小泉政権当時、不法入国で拘留した金成日の長男、金成男をむざむざ帰国させたことがあった。今回同様、ことなかれ主義以外のなにものでもない。
  あれを主導したのは誰か?
 政権交代で、政治の側のプレーヤーはすっかり入れ替わっているのに、全く同じ対応がとられていることを見れば、この事なかれ主義の主人公が、外務官僚であることは明らかだ。
 勘のいい人なら、その具体的な名前さえ思い浮かべることができるかもしれない。
 日本の官僚が優秀だと、だれがいつどんな場面で思ったのか是非知りたいものだ。
 ところで、小沢一郎を無理矢理起訴にもちこんだ検察審査会は、今回の中国人船長釈放については、何も言わないのだろうか。あの映像を見る限り、不起訴不当だと私には思えるのだけれど。
 アメリカの中間選挙での民主党大敗を受けて、中国はアメリカを懐柔しようとしている。アメリカはインドに接近している。外交の世界はダイナミックに動いていく。手をこまねいているのは日本くらい。
 以前にも書いたが、冷戦構造下での日米安保体制は、事実上、沖縄を出島にした鎖国制度にすぎなかった。その間、外交といえるほどのことは何もしていない。わずかに外交が動いたときは、田中角栄の中国、橋本龍太郎の日ロ共同宣言、普天間返還、小泉純一郎北朝鮮、と、政治が主導したときだけなのである。
 どういうわけで外務官僚は、自分たちが優秀だと思い込んでいるか?わけがわからない。