「ヒミズ」

knockeye2012-01-28

 「瞳は静かに」を観たときに「今年はこれ以上の映画には出会えないだろう」と書いたけど、あやしくなってきた。
 園子温監督の直近の二作品については、観にいかなかった理由がはっきりしている。
 「冷たい熱帯魚」の元ネタは、愛犬家連続殺人事件だ。私としては、‘犬→熱帯魚’のその変更点がちょっとヤだった。
 「恋の罪」は、週刊文春の映画評子のうちで信頼している芝山幹郎斉藤綾子が、異口同音に‘そのオチはねぇだろっ’的なニュアンスで書いていて、現実の事件を描いている作品にそもそもオチは要らないのだし、それは、「冷たい熱帯魚」の‘犬→熱帯魚’と同じ態度かなという気がして、つまり、観客に投げかける勇気がないのかなという、まぁ、観ないうちに失礼なのだけれど、こっちは金出して観にいくのだし、スクリーンの向こう側でごちゃごちゃしているだけで、こっちに何も飛んでこないんじゃヤだなという、そうこうするうちに観にいかなかった。
 今回の「ヒミズ」は芝山幹郎斉藤綾子も一転、高評価だし、なにより、おすぎの評価が低いのがよい。
 ところで、週刊文春椎名誠のエッセーを読んでいたら、福島に毎年恒例の年越しキャンプかなにかでいって、ちょっと買い出ししている間に、ソフトボールの道具一式をごっそり盗まれたと書いてあった。
 この映画について書こうかどうか迷っているところだ。
 主演の染谷将太二階堂ふみヴェネチア国際映画祭でのマルチェロ・マストロヤンニ賞受賞はむしろ当然。彼らの存在がこの映画を世界的なヒットに導くのではないかと思う。
 しかし、やめようか。
 桜庭一樹の『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の解説に、辻原登がこう書いていた。
「生き残った子どもたちだけが大人になれる。」
 昔、ほんとに大昔、まだ10代でさえなかったかもしれないころ、テレビに「モグラの家」という孤児院を運営している若者が出ていた。学生運動の季節が去り、若いことが息苦しかった時代、そういう生き方が番組制作者の目にとまったということだったろうか。
 司会者が
「なぜ『モグラの家』なんですか。『太陽の家』とかじゃいけなかったんですか?」
と聞いた。
 伏し目がちの若者が、一瞬言いよどんだあと、何と答えたかは憶えていない。
 しかし、子どもだった私にも「モグラの家」と名付けた彼の真実が伝わったし、答えを言いよどんだ真実も伝わった。
 ヒミズモグラのことだそうだ。‘火の水’ということなのかと思った。
映画『ヒミズ』公式サイト 2012年春 シネクイント他全国順次公開 映画『ヒミズ』公式サイト 2012年春 シネクイント他全国順次公開 映画『ヒミズ』公式サイト 2012年春 シネクイント他全国順次公開 このエントリーをはてなブックマークに追加