「わが母の記」

knockeye2012-05-26

 樹木希林役所広司と揃うと、さすがに泣かす気満々みたいな、姑息な「母もの」映画にはならない。
 シナリオもみごとなもので伏線の張り方が巧み。それに樹木希林の演技が応えている。
 三国連太郎樹木希林役所広司南果歩ミムラ宮崎あおいと、世代の違う役者がきちんとした仕事をしているのがたのもしい。日本映画は、斜陽産業と言われて久しいのに、いつのまにか厚みのある陣容になっている。
 もちろん、この映画が十年に一度の大傑作なのかどうかは知らないけれど、お金払っても見てよかったなという気持にさせられる。映画に情熱のある才能が集まって仕事をすれば、こういうプロの仕事になってしかるべきなんだけれども、そこにマーケティングがどうの、スポンサーがどうの、プロダクションのメンツがどうの、親会社の意向がどうの、と色々な雑音が入ってくるとだめになってしまう。最近の日本映画が面白いのは、斜陽になったせいで、そういう連中が出て行ったおかげだろうと思う。
 他に、地味なことで言えば、ロケーションハンティングもいいし、撮影もいい。多分、ライティングにそうとう凝って味を出していると思う。
 小林信彦が書いていたが、いまでは日本映画史にその名を刻んでいる「幕末太陽傳」だが、主演のフランキー堺は‘ほめてくれるのはうれしいけど、そこまで大げさな積もりじゃなかった’みたいなことを言っていたそうだ。それでああいうものができるっていうのがプロなんじゃないだろうか。
 「わが母の記」を観て、いまの日本映画も、全体として水準はかなり高いと感じた。
 ところで、樹木希林の母親役というと、原田芳雄と夫婦役を演じた「歩いても歩いても」(是枝裕和監督)もよかった。見逃した人にはオススメしたい。

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