小林信彦のコラム 701回目

knockeye2012-05-25

 週刊文春の連載がめでたく700回を超えた小林信彦のコラム、今週号は、上杉隆の新刊『新聞・テレビはなぜ平気で『ウソ』をつくのか』ほか。
 これを読んで、ある感慨というのかなんというのか、とにかく、これは小林信彦という人の魅力のひとつなんだろうか、不思議な気がするが、論理的な部分が一切ない。だが、もういちど言い直してもいいだろう。これは小林信彦という人の魅力なのだ。論理的であることは大事なことだが、それよりもだいじなことは正直であることだろう。小林信彦は正直な人だ。大人が正直でいてくれることは、子どもにとって何よりありがたい。
 すくなくともウソを論理的に見せることは簡単な作業だろう。じっさい、いまの新聞やテレビがやっていることはまさにそれだが、政官財報よつどもえのウソを歓迎する大衆が存在するのもまた戦時中とおなじことだ。
 そんな世界で生きるためには、ロジカルにものを考える必要があると思っている。
 今回のコラムでは、小林信彦小沢一郎を、これはなんというのか、いわば擁護しているわけだけれど、何度も言うように、西松事件の時、東京地検特捜部、また、NHKをはじめ、マスコミのほとんどが小沢一郎を攻撃するなか、彼を擁護したのは、ネット世論だった。このブログもその末端にいたわけだけれど、ところが、小沢一郎という人は、あろうことか、選挙で大勝するやいなや、公約していないことは断行し、公約したことはあっさり反故にしてしまったのである。
 政治家に限らず、そういう人間が信用を失うのは当然だ。
 「国民が小沢一郎に不信を抱いている」としたら、それは「記者クラブメディアの徹底的な攻撃のため」ではないのだ。もしそうなら、そもそも政権交代の選挙で大勝しないだろう?違いますか?
 まだ政権交代ほやほやのころ、テレビの「カンブリア宮殿」に小沢一郎が出ていた。小池栄子村上龍かに、「自分で総理になろうとは思わないのか?」と尋ねられて
「幹事長は実働部隊ですから」
と答えたのを聞いて「?」と思った。
 小沢一郎の感覚では、総理大臣は‘実働’していない。それは、自民党一党支配のもとで派閥争いをしていた感覚そのまま。今回のコラムに小林信彦自身も書いている「竹下派会長代行」として「総裁選候補の宮沢喜一渡辺美智雄三塚博の三人に<個人面接>をした」そのときのままなのである。
 彼の頭の中の政治の姿がそのようなものだとすれば、そもそも、この人に政治ができるのだろうか。彼の頭の中にある政治がそのような姿だからこそ、二度も自民党政権を倒しながら、1年も持たずに政権が瓦解する。細川政権から16年を経て、またおなじような醜態をくりかえしたのだから、国民の信頼を失うのは当然である。
 東日本大震災の混乱のさなかに政局をやらかすのをみて、私は「カンブリア宮殿」のあの小沢一郎のセリフを思い出した。
 とはいえ、私は別に小沢一郎を攻撃しているわけではない。こんなブログが攻撃したからといって、痛くもかゆくもないだろうし、それに、私自身にしても政治家の悪口を書きたくてうずうずしているわけでもない。
 小沢一郎だろうが、菅直人だろうが、やると言ったならやればいいじゃないか。一度たりともやるなとは言っていない。ところが二人とも、言うだけは元気だが、実際にはやらずに逃げちゃう。菅直人は解散せず、小沢一郎は不信任案に同調せず、これは文字通り逃げちゃった。
 有言不実行の最たるものは野田佳彦だが、菅直人小沢一郎もその点においてあまり変わらない。こちらとしては何かを言う気にもならない。
 今回の‘消費税増税反対’も貫くか、それとも、政局に利用するだけか。もうすぐ答えが出る。
 今週のSPA!で、坪内祐三福田和也が、10代の頃「文学のツートップって小林信彦筒井康隆だったでしょう。」でも、ふたりとも小林信彦だったと書いている。
福田 『大統領の密使』とか素晴らしかった。」

大統領の密使 (角川文庫 緑 382-4)

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