『スクリーンが待っている』

スクリーンが待っている

スクリーンが待っている

 西川美和監督が『すばらしき世界』を撮った顛末。
 実は、八千草薫さんもキャスティングしていたというのが驚きだった。
 役所広司が泣くシーンがあるのだけれども、たしかにあの前のシーンの役者さんが八千草さんだったら、あそこはもっと重さのバランスがとれていた気もする。
 でも、あの役者さんが全くの無名だったのでリアリティがあったとも言える。代役に気が回らなかったのは、もしかして八千草薫さんが、この役を闘病の支えにしているのではないかと、躊躇していたそうなんだが、八千草薫さんは考えたよりずっとプロで、冷静に状況判断していたって言う。
 女優という言葉は、一方では、人間のタイプかキャラクターを指し示すものとして使われがちだが、八千草薫に関しては、それは純然と職業だったっていう、実は当たり前の話。1950、60年代には当たり前だったことが、今また当たり前になりつつあるっていう、何か、時代の転換点にいる気がする。
 それともうひとつ印象的だったのは、三上(役所広司)の住むボロアパートの、下の部屋に住んでいた、どこか外国からの出稼ぎ風の三人は、実際に取材途中で出会った、インドネシアからの技能実習生だったそうだ。
 映画の中では彼らのその後に触れられないが、なんとも驚いたことに、彼らを雇っていた親方さんがいい人で(じゃなきゃ取材に応じないか)、ジャカルタに鳶の会社を起こす予定だそうで、あの映画の若者たちは、現地で経営に加わる計画だそうなのだ。夢のある話だなと思った。
 役所広司さんと前作の主役、本木雅弘さんの映画に対する流儀の違いも面白かった。