「凶悪」

knockeye2013-10-18

 「凶悪」を観た。レイトショーで。レイトショーでしかやってなかったので。ほんとは連休中に観るつもりだったのだけれど、休日のレイトショーはつらいわけ。というのは、昼間にあちこち出歩いた後、その上さらにレイトショーは、体力の限界。それをいうと、ウイークデイは楽してるのか、てなるけど、たまたま早く上がれた日なんかはレイトショーけっこういいみたい。
 それはともかく「凶悪」よかったわ。こないだ「共喰い」を、‘今年最上かも’といったばかりでナニだけど、あちらは田中裕子、篠原友希子、木下美咲、の三人の女優がすばらしかったのと対をなすように(ってこじつけ)、「凶悪」は山田孝之ピエール瀧リリー・フランキーの男優陣がよかった。
 りりー・フランキーは、「ぐるりのこと。」、「そして父になる」、それからこれと観ているけれど、どの映画もすごくいい。最後の、山田孝之と対面する場面なんか、さっと切り上げる感じがかっこよかった。
 もちろん、これは、監督の演出がいいのはもちろんです。白石和彌といって、若松孝二のお弟子さんらしい。
 実話だそうだけれど、これを、山田孝之ピエール瀧リリー・フランキーでやる、というキャストを発見した時点でもう勝ってた気がする。
 リリー・フランキーピエール瀧のふたりが、喜々としてじいさんをいたぶっているところでは、にやにやしている自分に気が付いてはっとした。
 でも、ひっどいじいさんなのよ。ろくに働かないで多額の借金つくって家族に捨てられたんだけど、「かあちゃんとこ帰りてぇ」とか泣いてるわけ。そのかあちゃんに捨てられてるの。それに、やっぱり今思い出しても笑っちゃうんだけど、リリー・フランキー扮する‘先生’が、「・・・ていってるけどどうする?」とか携帯で確認とるわけ。そしたら、電話の向こうで、「今さら困ります・・・」みたいな。それでも「死にたくない、帰りたい」っていいつつ殺されちゃうんです。
 結局、この殺人が‘先生’の命取りになったんだけど、実は、警察もろくに捜査してなくて、そこを山田孝之に突かれたときの警官のセリフがすごくて、
「ワカリマシタよっ」
って、まえにこのブログに書いたけれど、信号機の電球が切れてるのを警察に知らせた(「警察に一報ください」と書いてあったから)、そのときの警官の対応を思い出した。
 リリー・フランキーが、老人介護施設を眺めながら、ピエール瀧
「よのなか不景気だけど、われわれは油田を発見したようなものだよ」
ていうセリフが、グロテスクだったわ。
 でも、このプロットのみごとなのは、それは全部、ピエール瀧の話の中の‘先生’なんだよね。
 そして、もうひとつは、山田孝之が演じる記者の母親も、ボケがすすんで、ホームに入れるかどうかの結論をずるずる先延ばしにして、奥さんとの仲は危うくなるわ、奥さんは母親にたいしてどんどん暴力的になっていくわ、ていう記者の家庭の事情が、じいさんを‘先生’に売り払った家族と似てくるんだけど、そのときに記者がなにができるかというと、結局、母親をホームにあずけることしかできない。‘先生’のいうところの‘油田’。しかし、老人ホームを‘油田’だという考え方は、アベノミクスの成長戦略と気脈を通じてはいる。
 ピエール瀧のやくざが、「A列車で行こう」のときの九州の鉄オタ社長とガラリと変わってすごすぎるんで、逆に最後のどんでん返しにまんまとひっかかった。ここまで書くとかなりネタバレか。もう公開終わるしいいか。でも、これ実話なんだから、このどんでん返しも実話?。
 最後にちょっとだけどうかなと思ったのは、リリー・フランキーピエール瀧の暴力のすごさのバランスで、主人公の家庭の荒れ方の描き方がやや弱く感じられた。まあ、それほど男優陣が際立ってたっていうことかもしれない。