「穴」

knockeye2014-02-10

 文藝春秋の3月号が出ていたので買ってきた。
 芥川賞を受賞した小山田浩子の「穴」は、最近、私が読んだ芥川賞作品のなかでは、かなり面白いと思う。
 タイトルの「穴」は、実際に地面の穴として小説に出てくるのだけれど、それだけでなく、小説のあちこちにいろんな落とし穴が仕掛けてあったり、虫食い穴が空いていたりで、読者としては、客観的な叙述を読んでいたはずが、はっと気がつくと、いつのまにか主人公の主観の世界に紛れ込んでいる、のかな、ときょろきょろすることになるし、それは、主人公のあさひさん自身も、意図せずに、はまりこんでいる、時間の穴かもしれない。
 ラストの一文は、予告編っぽくいえば、衝撃のラストだが、「私」という個性が、しだいに類型に変化していく、そういう日常の外面に、思いがけない穴がぽこぽこ空いていて、類型的な日常は、もっと得体の知れない、内容の表面にすぎない、といった不穏さが全編にただよっている。
 類推にすぎないけど、吉行淳之介の『暗室』の一場面を思い出した。

 ついでにいうと、同じ号に載っている、村上春樹の小説が、ちょっと深刻な気分になるほどつまらない。もちろん、村上春樹だって、つまらない小説を書くときはあるだろうけれど、「大丈夫か?」と思うくらい、いいところがない。先月の、根津美術館がでてくるやつはわりと好きだったけどな。

 塩野七生の連載コラムに、最近刊の『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』について、新聞の書評より「ブログの匿名批評の方がよほど正直だ。」と書いて、アマゾンに投稿された匿名コメントのひとつを紹介している。

 東京都知事は、舛添要一が早々と当選を決めた。結果論だけど、順当だよな。東京都民らしい選択に見える。細川護煕宇都宮健児家入一真田母神俊雄、とか、このあたりが当選すると、本気で思った人がどれだけいたか知らないが、現実的には舛添要一がもっとも優秀だろうと思われる。もっとも、その意味では猪瀬直樹も優秀だったのは間違いない。石原都政の後半は事実上、猪瀬都政だったと見ていたのだが、どういうわけであんなことになったか、どうにもよくわからない。
 この都知事選の結果を受けて、日本は右傾化しているの、脱原発は勢いを失ったの、いろいろ論評するのは、それが飯の種の人々にはしかたないことだが、私には順当な候補が順当に勝っただけに見える。これ以上話を膨らますのは無意味じゃないかと思う。
 それで思い出したが、ニューズウィークの2.11号に、脱原発の現在地という特集があって、その記事を読んでいると、いまや、脱原発は70年代の学生運動みたく、「尖鋭化し、セクト化」しているらしく、山本太郎なんかは「脱原発でも、TPPに賛成の人は出ていって欲しい」とか発言しているらしい。
 この人にとって、「脱原発」はもはや、福島第一原発のリアリティーから遠く離れて、新興宗教のようなものになってしまっている。異端審問官とか魔女狩りの世界で、こうなったらもうおしまい。あとは、浅間山山荘に向かって走るしかない。
 舛添要一がいっている脱原発のほうが、むしろ現実的に思える。戦略が伴えば、だけれど。