平塚市美術館で今日から始まった石田徹也の展覧会を見に出かけた。
故人を天才呼ばわりするのは、思考放棄にすぎないかもしれないが、おそらくこの人は今後、天才と呼ばれてゆくだろう。
今まで断片的に観ていた絵から判断して、もっと寓意的なものか、もっと狭い世界を想像していたけど、こちらの予想よりはるかに完成度も高いし、モチーフの選択も、自由自在で、私小説的な狭さに閉ざされていない。
それに多作なのもすごい。アトリエにごっそり未発表作が残されていたそうだ。
美術史の必然と関係なく、こういう才能が突然、「降臨」みたいに登場する。そして、気がつくとすでに死んでる。
どれも印象的だったが、なかでも、マスターピースといわれるのではないかと思ったのは、<捜索>という作品。
ここに寓意しか読み取れないとしたら、絵を観ていないのだろう。えぐられた腹に、むき出しになった地層の不快感を感じるし、腕に潜り込んでくる線路にかゆみのような違和感をおぼえる。そして、生きているのかいないのか、自己なのか他者なのかの区別が曖昧になる。
「芸術が人生を模倣する以上に、人生は芸術を模倣する」と、オスカー・ワイルドは云ったそうだが、もしそうなら、オスカー・ワイルドのその時代、風景が印象派を模倣し始めたように、現在のわたしたちは、もはやいくぶんか、この石田徹也の絵を模倣しはじめているかもしれない。
早すぎる死が残念だと思う。現在にひっかききずをつけられる、数少ない芸術家のひとりだったと思う。
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