「ガール・オン・ザ・トレイン」

knockeye2016-11-19

 「ガール・オン・ザ・トレイン」は、いつも辛口なNEWSWEEKの批評子が、褒めてたので、ちょっと意表を突かれた。エミリー・ブラントが車窓から何かを見ているキー・ヴィジュアルも好みに合う。
 うすうすそう感じてたのだが、エミリー・ブラントルーニー・マーラは、メイクとかカメラアングル次第でほとんど同人物かと思う時があるのは、私だけではないらしいが、個人的には、ちょっとグランジがかっているというか、荒んだ感じの方が、エミリー・ブラントだと区別していたので、今回の、バツイチ、アル中、失業中って役どころは、まさにはまり役だと思う。
 離婚後、居候させてもらってる友だちに、失業したと言えなくて、毎朝、通勤電車に乗って、元・ダンナが後妻と住んでる、元・自分の家を車窓に見ながら都心に出て、暮れ方にまた帰ってくる、そんなやりきれない感じが、エミリー・ブラントによく似合っている。
 そんな毎日の車窓の風景に、勝手に理想化している夫婦の家ってのがあって、その夫婦を眺めるのが唯一の慰めみたいな。
 ところが、ある日、その勝手に理想化している夫婦の嫁さんが、他の男と浮気しているらしい現場を見て、記憶がなくなるまで飲んでしまうんだけど、翌朝、目を覚ますと血だらけ泥まみれ。そして、その「理想の嫁さん」は行方不明になっている。
 エミリー・ブラントは、その失踪の真相を知るべく動きはじめるのだが、このプロットの面白いところは、もしかしたら、最悪は、自分が殺したかもしれないという不安をいつも抱えているところ。
 失踪した女性(ミーガンという名前だと後でわかる)も、主人公が勝手に想像していたほど幸せではなく、ある深刻なトラウマに悩まされていたことがわかってくる。そのトラウマは、主人公の過去とも無関係とまでいえず、そして、実は、元ダンナの後妻・アナとの関わりも分かってくる。
 てな具合で、この映画のシナリオはよくできている。というのは、原作は、主人公・レイチェル、失踪した女性・ミーガン、元旦那の後妻・アナの3人の日記で構成された300頁を超える長編小説だそうなので、それを映画的な構成に組み替える手腕はなかなかなものなんじゃないかと思う。
 それから、エミリー・ブラントもそうだが、アナを演じたレベッカ・ファーガソン、ミーガンを演じたヘイリー・ベネットも、いずれ劣らぬ美女ぞろい。しかも、ルックスが性格とマッチしている。
 長編小説を映画にするのはそもそも無理なんだけど、キャスティングがハマると、小説では長々かかる人物造形が映画では一瞬で出来る利点はある。
 元旦那の作り込みがイマイチなのは残念だが、目立つキズはそのあたりだけかも。その点では、「ザ・ギフト」の方が仕事がていねいだった。
 細かいところで好きなシーンは、レイチェルがミーガンの旦那のスコットを訪ねるシーンで、取り乱しているスコットの、ずり下がっているズボンから、何かの拍子にチラッと見えたブリーフとおへそに、レイチェルが目を走らせるシーン。あのシーンがあるので、ただ車窓から眺めている夫婦に妄想をたくましくするレイチェルの性格に説得力を持たせられる。
 ミーガンのカウンセラーであるカマルを訪ねた時は、訛りを見抜いたり、意外に名探偵ぽかったりするのが面白かった。