『ワンダーウーマン1984』

 パティ・ジェンキンス監督の前作『ワンダーウーマン』は、第一次世界大戦を背景に選んだセンスが素晴らしかった。ヨーロッパ文明の終末に、アルカディア的な真善美の理想を体現したスーパーヒロインとしてのワンダーウーマンを対比して見せて、それが、ハリウッド映画の勧善懲悪的な世界観に直結するのが刺激的で面白かった。
 『ワンダーウーマン1984』の「1984」は、ジョージ・オーウェルの『1984』を意識したことはまちがいないだろう。この2作目が、80年代を舞台にすると聞いた時は、東西冷戦を背景にとった重厚なスパイ映画のようなテイストになるのかと思っていた。『裏切りのサーカス』、『ブリッジ・オブ・スカイ』、『誰よりも狙われた男』など、今でも制作され続ける人気コンテンツなのだし。
 しかし、そうはならなかった。『ワンダーウーマン』がスパイ映画になる必要はないし、歴史映画になる必要もない。その辺のバランス感覚も絶妙なんだと思う。図式的にならず観客の期待をきれいに裏切ってくれる。
 今回の悪役マックス・ロードがトランプみたいに見えるについて、パティ・ジェンキンス監督は、インタビュアーに、マックスがトランプに似ているのは、彼らを誕生させた価値観、メディアなどがまったく同じだからだと答えている。
 それからわかるように、監督はこの時代を東西冷戦の終わりとしてではなく、むしろその後の世界の始まりととらえたわけだった。
 アクションシーンの美しさも見逃せない。ワイヤーアクションにこだわったそうだ。クリステン・ウイグの演じたチータとの格闘は、シルク・ド・ソレイユの協力で動きを振り付けた。個人的には中東でのカーアクションに圧倒された。
 最後に登場するサプライズゲストも心にくい。女性スタッフと女性キャストで作られた映画であることを改めて意識させる。
 性差別は難問だと思う。これについての正解はまだ目にしたことがない。それが女性自身の心にも巣食っていることを女性は認めようとしないし、男性は、それが男性をも傷つけていることを認めようとしない。そうして男女のいがみ合いを楽しむ悪趣味な結果以外を見たことがない。
 ワンダーウーマンは、女性問題を人格化させるユニークな存在だと思う。ワンダーウーマンについて語る方が、性差別について語るよりはるかに意味がある。そういう存在。
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