Q-anonと日比谷襲撃事件って似てるね

 Q-anonがアメリカの議会を襲撃する映像には驚いた。ジョー・バイデンは、あれはごく少数のアメリカ人でアメリカを代表しないと言っていたが、一方で、ブラック・ライブズ・マターのデモとQ-anonの暴徒に対する当局の態度に差があったことを批判している。
 ブラック・ライブズ・マターの平和的なデモは暴力的に排除したのに、Q-anonの暴徒は易々と議会に招き入れたのだ。
 その態度の差はアメリカの公的機関のものなのだし、何より、トランプを大統領に選んだのはアメリカのシステムだったには違いない。だとすると、Q-anonがアメリカを代表していないと言えるのかどうか、大統領がアメリカの代表でないとは言えないし。
 と、たぶん、そう思いつつ報道を観ているアメリカ人も多いことだろう。そういう人たちは「アメリカも終わりだな」と嘆息しているのではないか。
 連想したのは、夏目漱石の『三四郎』に出てくる広田先生が「滅びるね」と評した、日露戦争後の日本の大衆の姿だった。
 三四郎は「熊本でこんなことを口に出せば、すぐなぐられる。悪くすると国 賊取り扱いにされる。」と内心で思う。
 この三四郎の感じ方を今の私たちはジョークのように読み飛ばすと思うのだけれどどうだろうか。そんなバカなと笑うと思うのだ。
 しかし、ポーツマス条約に反対する暴徒は、ほんとうに内務大臣官邸や外務省を襲撃した、日比谷焼き討ち事件は、そのころに、もしスマホがあれば、Q-anonのアメリカ議会襲撃と同じような映像になったのではないかと思う。
 日露戦争には、当時の国家予算の6年分が費やされた。その半額近くは海外からの借金で賄われた。その借金すら調達できるかどうか危うかった。調達できたのは、ひとえに高橋是清の活躍があったからで、外債獲得をめぐる日露の駆け引きの経緯を知っていた高橋是清を、ポーツマスの交渉に伴っていれば、結果は少し違っていたかも知れない。
 が、しかし、当時の内情を考えるとポーツマス条約の結果でも、日本に極端に不利だったとは言えなかった。もし、ポーツマス条約がバカげているというなら、日露戦争そのものがバカげていたのである。その後、大正バブル、大戦景気まで、日本は借金に苦しめられる。
 そしてそのバカげた戦争を正当化するため、軍は満州固執することになり、それが日本を悲惨な戦争へ引き摺り込むことになる。
 第二次世界大戦のあと、米軍基地で通訳をしていたある作家が、米軍兵と話をしているうちに進化論の話になった。
「オレは進化論を信じてるんだ。君たちは知らないだろうけれど・・・」
もちろん知ってるとその作家が言うと
「進化論を知ってて天皇を神だと思ってたのか?」
と驚いたそうなのだ。
 この話は一見ジョークのようだけれど、アメリカでは21世紀の今でさえ進化論を信じない人が4割を超える。太平洋戦争後ならなおさらなのだ。その頃の米軍兵が、天皇を神だと言い、神風と名付けた戦闘機で軍艦に体当たりしてきた日本人が、進化論を知らないと思うのは至極当然だった。
 いったい戦前戦中の日本人は何を考えていたのか、いまの私たちにはちょっと想像できないところがある。それはいまでも変わらないが、しかし、Q-anonの今度の映像を見て、こんな感じだったんだなと思った。彼らが「アメリカは偉大だ」と信じているように、当時の日本人も「日本は神の国だ」と信じてたんだと思う。
 『三四郎』をNHKの朗読でしばらく聴いていたが、途中でやめてしまった。やはり前半は面白いけれど後半に失速する。三四郎が童貞すぎる。