『大奥』全19巻 読みました

 このGWは垂れ込めてすごすほかないので、ちょうど都合がよいってこともあり、よしながふみの『大奥』全19巻を一気読みしました。

 これ2010年、2012年に映画化されたときには、「大奥の男女逆転?」と、ちょっと面白い思いつきとは思ったが、これって昔、ジョン・トラボルタハリー・ベラフォンテが出演した、黒人と白人の逆転映画『ジャンクション』みたいなことなんだろうと多寡を括っていた。あの映画は今調べるとデズモンド・ナカノという日系三世が監督している。あんなことでも白人や黒人では撮れないんだと、改めて人種対立の深刻さを思い知らされる。が、それはまた別の話で、そういう思いつきって「出オチ」ですよね。設定のインパクトをその後の展開で超えられないと思いません?。なので、『大奥』って映画もそんなことなんだろうなと尻目に殺して通り過ぎていた。まさか、その原作がこんなに史実に忠実(?!)とは知らなかった。
 白人と黒人の立場の逆転は、奴隷貿易の事実があるので、現実にはありえないファンタジーにすぎない。言い換えれば、『ガリバー旅行記』のような風刺にすぎない。読者は作者と皮肉を共有しつつパロディとしてこれを読むしかない。ところが、よしながふみの『大奥』は、それとは違った。大奥の男女逆転は、ぎりぎり史実としてありうる。史実でありうるかぎりただの風刺の態度に読者を安住させない。
 小説で言えば、辻原登の『花は桜木』、とか万城目学の『とっぴんぱらりの風太郎』の読後感に比べるべきなのかもしれない。漫画で言えば山田芳裕の『へうげもの』とか。
 コロナ禍が猛威を振るう時代を生きている読者には、「赤面疱瘡」という流行病が男子の人口を激減させたという設定は、あまりにもタイムリーで、荒唐無稽と批判できる読者はいないはずだ。
 十一代将軍家斉が子沢山だったのは有名だし、その子らの半数がまともに育たなかったことも同じように有名だが、その説明は、むしろ、定説よりこの漫画の方が腑に落ちる。
 そうなるともう阿部正弘が男か女かなんて気にならなくなって、この人がもう少し長生きしてくれてたらとか思ってしまう。明治政府の政策はほとんど阿部正弘の政策のパクリだと出口治明が書いてましたね。
 明治維新って、財政政策に失敗した江戸幕府から、貿易で力をつけた西国雄藩が外圧を利用して権力を奪ったという現実的な一面と尊皇思想というナショナリズムの一面があったが、尊皇の方はあやふやなもんで、徳川幕府の思想が尊皇でなかったわけでもない。尊皇はそもそも倒幕の裏付けにそれが必要だったにすぎなかった。
 今振り返ると、この現実と思想の乖離が日本の民主主義の妨げになった気がする。英仏の革命と明治維新の超えられない大きな差がそこにある気がする。

natalie.mu

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