『街の上で』

 今泉力哉監督は大阪NSCの26期生、かまいたち、和牛が同期だそうだ。今年はニューヨークがブレイクして東京NSCが注目を集めている。吉本興業が始めたこのタレント養成学校は、その一期生のダウンタウンを頂点に、今の芸能界に及ぼした影響はすごく大きい。
 世界に市場を広げた韓国映画の源流に、金大中大統領の戦略とCJグループのイ・ミギョン副会長の先行投資があったように、NSCダウンタウン、二丁目劇場などの常打ちの小屋、そして、M-1グランプリというコンテストという、こんなすぐれたエコシステムを作り上げたのは、吉本だけなんじゃないだろうか。ジャニーズ、秋元康日本映画大学を全部合わせたみたいな。
 といいつつ、今泉力哉監督の映画はこんかいがはじめてだった。昔、『こっぴどい猫』っていうモト冬樹主演の映画を観にいこうとしていたことがあった。ところが、これがどういうわけか上映が取りやめになった。映画館のつごうなのか何なのかいまだにわからないが、そういうわけで、とにかく観たかったのに観られなくて、今考えるとそこでみそをつけてた感じか。
 『愛がなんだ』がたぶんいちばん有名なんだと思うけど、なんか女子ウケしてるって評判で、ちょっと近づきにくく『あの頃。』は面白そうだったのだけれども、コロナ禍での精神状態と『愛がなんだ』のときの先入観もあったのかな、なんか観にいかなかった。
 この『街の上で』がわたしにとっての今泉力哉初体験になったわけだが、『こっぴどい猫』を観られてたら、三木聡監督作品みたいに追っかけてたかなぁと残念に思った。
 今回のが、原作のないオリジナル脚本なのもしっくり来たのかも。よく言われていることなんだけれども、セリフの自然さがすばらしい。それと、舞台がコロナ禍以前の下北沢なのもすばらしい。土地が物語と密接につながっているって作品があるでしょ。これもそのひとつ。最初に東京NSCの話から始めたのもそのせいがあったかも。東京NSCがどこにあるのか知らないんですが、下北沢が若い演劇人の聖地であることは知っているし、そういう空気ね。映画の中にもそういうシーンが出てきます。下北沢あってのこの映画だなと、そういうことを思わせる映画ってなかなかえがたいと思うのですよ。
 それからキャスティングがすごく好み。若葉竜也が主演。あんまり話題にならなかったかもしれないけど、石井裕也監督の『生きちゃった』は去年観た日本映画のなかでは群を抜いてよかったし、ほかにも石井岳龍監督の『パンク侍、斬られて候』、吉田大八監督の『美しい星』、赤堀雅秋監督の『葛城事件』。
 それから、萩原みのり。二ノ宮隆太郎監督の『お嬢ちゃん』がすごくよかった。『37セカンズ』のときも含めてみんな気の強そうな役なんだけど、全部感じが違うのがすごいと思います。
 それから、『愛がなんだ』にひきつづき成田凌ね。それを言えば、若葉竜也もそうなんだけど。成田凌については『まともじゃないのは君も一緒』はぜひとも観にいくつもりにしてます。来週、あつぎのえいがかんkikiに来ますのでね。
 日本映画って「金がねぁなぁ」と思うことが多いのですよ。『キングダム』とか『進撃の巨人』とか。でも、それはそれとして、低予算映画賞ってのがあったとしたら、かなりぶっちぎりで賞レース総なめにするかもなと思いなおしました。いいか悪いかしらないけど。
 エンドロールなんて『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の3分の1もないくらい。もうすこし市場を広げられないものかと心配になります。