黒澤明インタビュー

 NHKラジオアーカイブズで、たまたま黒澤明のインタビューが聴けた。『影武者』でパルムドールを受賞した年の暮れのインタビュー。
「黒澤さんにとってですね、面白い映画ってのはどういうものだって風に考えになりますか?」
「そうねえ、その、まずよくわかる、ってことじゃないですか。なんかこう大変難しいことを言われてもね、押し付けられても、ついていけないでしょう。ただ、よくわかるっていってもね、浅くわかるってこともあるし、深くわかるってこともあるし。だからその、どういう人に見せてもね、それだけのものを含んでなきゃいけないですよね。
 それとやっぱり僕が一番重要なのは、映画ってのは、映画のひとつの美しさってものがあるんですよね、映画独特の。それが備わってなきゃね。だからやっぱり、これこそ映画だっていうものをね、それは文学を読んでも、演劇を見ても、美術を見ても、それは独特の美しさがあるから人はついてくるでしょう。だから、映画ってのは映画独特のそういうものがなければ。それがやっぱり一番肝心な点じゃないですかね。」
「映画独特のその美しさっていうのは?。」
「それはね説明ができないんですよ。うん。ただあるひとつの映画を観ててね、あるところでこう、背中が寒くなったような、変な感動を覚えたりするでしょう。そういうところだと僕は思うんだけどね、具体的には。だから、それが、そういうところがたくさんあるほどいい映画なんだと僕は思いますけど。それが大変素晴らしいものだと思うから、今もって夢中になって映画を作ってるんでね、そいつを捕まえたいからね。」
 こないだ『シン・エヴァンゲリオン』について書いたあと読み返してみると、なんか微妙にディスってるみたいに読めなくもないなと気にかけていた。そういつもりはないのだけれども。そしたら、黒澤明がドンピシャなことを言ってたので。
 前半の「映画が面白いってことは、よくわかるってことだ」という部分だけ取り上げると、庵野秀明ディスる材料に使えるだろう。でも、後半の「映画独特の美しさは説明できない」ってところになると話が逆になる。
 あの時も書いたけど、わたくしそもそも、『シン・エヴァンゲリオン』を難解だとは思いません。難解に取りたがる人は、それも楽しみ方のひとつかもしれません。このインタビューで言われている「深くわかる」ってことね。ただ、庵野秀明自身が言ってるとおり「ロボットアニメ」ですからね。エンタメとして成立してるかどうか、つまりこのインタビューでいえば「背中が寒くなったような感動」があるかどうかですけど、それはいうまでもなく、あるんです。それがなきゃ80億とかの興収いかない。でも、「よくわかる」って点については弱いと思いました。それは難解ってことじゃなく、私的な思い入れが紛れ込んでいるからだと思いました。
 エヴァンゲリオン庵野秀明にとって、確かに私的なものでもあったと思いますが、「シン・ゴジラ」にまでそういう部分があったかというと、なかったと思ってますけど、危ういバランスだったとは感じていてエンタメに徹しきれたとは、言い換えれば「ゴジラ」に徹しきれたかどうか、ってあたりのことが持ち越しになったって思ったわけです。
 黒澤明監督のインタビューはらじるらじるで6月28日まで聴けるそうです。

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