『アフリカン・カンフー・ナチス』

 いつものように「霜降り明星のオールナイト日本」をradikoで聞いていたら、途中で配信が途絶えた。何かやらかしたんだなとは思ったけど、どんな発言をしたかも分からないので、何の判断もできない。メディア自身が平気で検閲を行う。
 何か熱海の土石流について発言したらしいのだけれども、触れると火傷する話題なのは分かりきってたはずだから、彼らの判断で発言に責任を持てばいいだけのことで、それについて何も言うことはないが、以前の岡村隆史の発言もそうだし、すべてのコメディアンは冗談を言うのが仕事なんであって、コメディアンがどんな不謹慎なことを言おうが、それに怒るのは無粋の極みなのだ。コメディアンが不謹慎なことを言わなくなったら世も末、というのは、大昔のギャグだったはずだが、今、それが現実になってる。
 もし、政治家や役人が不謹慎なことを言ったらその時こそ怒らなければならないのに、何度も言っているように、日本では入管で人が殺されても、何のリアクションもない。アメリカの民主主義がどうのこうのと批判する向きもいるが、アメリカで役人が人を殺せば、世界を巻き込んでblack lives matterの運動が起こる。日本で盛り上がるのはコメディアン叩きだけで、権力構造の上部には運動が向かわない。コメディアンの発言なんて叩いても何もならない。むしろ、上部構造に向かう力のガス抜きになるだけだ。日本の庶民って日比谷焼き討ち事件の頃からバカなことしかしない。日本の庶民が政治を担う市民に成長するってことは望み薄なんだろうと思う。
 『アフリカン・カンフー・ナチス』っていう、これぞ不謹慎って映画を観た。映画としてはツッコミどころ満載で、何が悪いかと言うと、製作、監督、脚本、出演(ヒトラー役)のセバスチャン・スタインが大根すぎる。しかも、東條英機役の秋元義人って人は役者ですらなく、数年前に便利屋を開業したって人で、便利屋業の一貫として、今回は役者として雇われたそうなのだ。そうなってくると、この映画の成立事情全般を面白がるしかないわけで、しかも、それが実際、面白い。何かセバスチャン・スタインはミュンヘンの大学でメディアを学んでニュージーランドでCM会社に勤めていたが、現地で知り合った日本人バックパッカーと馬があって、日本で働き始めてもう16年になるそうだ。今回の映画は、アフリカ移住を目論んででっち上げた企画らしい。
 しかし、そういう楽屋裏の面白さだけかというと、そうでもなく、この映画のvividな部分は、ガーナ側のスタッフやキャストの達者さによっている。セバスチャン・スタインとは別に、もうひとり、ニンジャマンって人が監督にクレジットされている。たぶん、この人が一般的に言うこの映画の映画監督なんじゃないかと思う。でも、なんで「ニンジャマン」?。なぜか、ドイツ人とガーナ人が日本で繋がっている。それでかどうかしらないけど、シナリオもヒトラー東條英機がガーナでカンフーで再起を図るってことになっている。
 こないだ小林信彦さんの特集で観た『大逆転』でも、ヒトラーが生きていた設定だったが、あれは、時代的にギリギリありえた。でも、今さらヒトラー東條英機が生きてるでもない気がする。まして、ゲーリングがなぜかガーナ人という、ツッコミようもない設定を呑み込んだら、あとはガーナの役者さんたちの生き生きとしたお芝居が楽しめる。アフリカの若さが眩しい。
 監督のセバスチャンは、幼い頃から拳法の経験者だったそうなので、その点ではケミストリーを生んでるかもしれない。カンフー映画そのものがそもそもナンセンスなんだし、パンクだと思ってみれば楽しめる。
 公式サイトのキャスト紹介が楽しい。って言っていいのかどうか、とにかく盛り上がってる感じはわかる。

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