『死刑にいたる病』

 『凶悪』で一躍スターダムにのしあがった白石和彌監督なんだけど、個人的にはあれ以来、ちょっとピンとくる作品がなかった。『日本で一番悪い奴ら』は世間では評価が高かったんだけど、あの男子校的なノリが空回りとしか私には見えなくて、綾野剛が一流の柔道選手には絶対見えないし、私としては白けた気分だった。たぶん、元が実話だったのも更に悪くて、『凶悪』も実話だったんだけど、それはどうでもいいくらい面白かったのに対して、『日本で一番悪い奴ら』は、実話という「側」と映画の「中身」がマッチしていないチグハグさがあった。
 『彼女がその名を知らない鳥たち』も、『日本で一番悪い奴ら』ほどではないけど、波長が合わなかった。アンジャッシュ渡部さんが事件を起こした時、この映画の松坂桃李を思い出したけど、阿部サダヲの演じた主人公の方はそのヒロイズムがひとりよがりに思えてしまった。
 そういうわけで個人的に何か波長が合わなかった白石映画なんだけど、今回の『死刑にいたる病』は『凶悪』以来はじめてビタっとハマった。というか、今回のを観て、今まで白石映画に感じていた違和感に気がついたくらい。『死刑にいたる病』も『凶悪』と同じく猟奇的な連続殺人を扱ってるんだけど、サイコパスを描くのが上手いとかじゃなく、登場人物に監督の思い入れが入り込まない方がやっぱりいいんだと思う。
 今までにないタイプの殺人犯を創造していて、しかも、まったくのフィクションなのにリアリティがある。それは、殺人犯に殺される側の人たちの方にじわじわとリアリティが付与されていくからだろう。自己肯定感が低く、自分では何も決められない人たち、実は多数派ではないのだろうか。
 そうした人の弱い部分に入り込んで心を操ることに快感を覚える、そういうタイプは、この殺人者ならずとも、SNS時代に目立ってきたタイプと言えないだろうか。多分、その殺人犯の動機の現代性が薄気味悪いほど見事に描かれている、しかも、エンターテイメントとしても、オープニングからラストまで完璧に構築されているというか、仕組まれているのも素晴らしかった。
 面会室のシーンは是枝裕和の『三度目の殺人』とかぶるとも言えるだろうが、あの演出がなかったら味気なかったと思う。実に映画言語的で、逆に、原作小説ではどう描かれているのか興味を覚えた。


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