『エンパイア・オブ・ライト』ちょっとネタバレ

 金曜日のレイトショーで、そんなに期待せず出かけた。期待があったとすれば、昔の映画館の話だそうなので、ジュゼッペ・トルナトーレの『ニュー・シネマ・パラダイス』みたいのかなとか思ってたかもしれない(ちなみに『モリコーネ』も観たばかりだったし)。
 でも、後から考えてみると、主演のオリヴィア・コールマンのたたずまいをみれば、これがそんな映画でないことは想像できたはずかもしれなかった。
 1981年のイギリスの状況は、今の日本人には身につまされる。それこそ『マリー・クワント』で描かれていたスウィンギング・ロンドンの輝かしい60年代からあれよあれよと滑り落ちてしまったイギリス。経済が悪化して失業率の高さから移民排斥の差別的な暴力事件が後を絶たなかった。
 エリック・クラプトンが移民排斥を支持する発言をし、デビッド・ボウイナチス風の敬礼をして、ロックの終焉を強く印象付けた。そういう中からパンクが生まれてきたわけだった。もともとパンクそのものはニューヨークで生まれたものだったが、イギリスでのパンクはそうした時代背景と強く結びついていた。この映画にも、ウォークマンを聴いている女の子(ハナー・アンスロー)がはっきりとパンクのメイクとファッションをしている。
 おそらく、その時代を通り過ぎてきた英国人から観ると、今の日本はまさに80年代の自分たちに見えるだろう。the 1975(何とも示唆的なバンド名)のマシュー・ヒーリーが日本人を差別する発言をしてバズっているそうだが、差別の部分はともかくとして、まさに今の日本の状況を自分たちイギリス人の歴史になぞらえていた。その認識が正しいかどうかはひとまず置くとして、ゴシップ的な無責任な目で見ると、確かにそう見えるに違いないと思う。
 しかし、英国では少なくともそんな中からRAR(ロック・アゲインスト・レイシズム)の運動が盛り上がった。1978年に行われたRARのギグにはトラファルガー広場からヴィクトリア・パークまで100,000人規模の人たちが大行進に参加した。ドキュメンタリー映画『白い暴動』によると、その中には第二次世界大戦ナチスと戦った老人たちのグループもあったそうだ。
 そんな状況でも少なくともイギリスでは移民を受け入れていただけまともだった。日本では役人が移民を受け入れないだけでなく殺している。ちなみに、2月23日に入管法改正案反対のデモが行われたが、どのくらい盛り上がっただろうか。大阪の参加者は150人だったそうだ。
 そんなわけで、この映画の中で描かれている黒人青年ステファン(マイケル・ウォード)の状況にはヒリヒリする現実感が迫る。ヒラリー(オリヴィア・コールマン)と海に出かけた帰りのバスに白人の乗客が乗ってくる。ただそれだけでも画面に緊張感が漂う。
 そういう英国の状況を背景としながら、この映画の骨格を支えているのは何と言ってもヒラリーの存在なのである。映画館の統括部長を務めているヒラリーが映画が進むにつれその人となりをあらわにしていく過程がすごくうまい。映画の発端だけを見ればあの統括部長の方が主役だとは誰も思わないと思う。
 サム・メンデス監督作品では、『1917 命をかけた伝令』(2019)は、正直言って「何これ?」と思った(少数派だと思う)のだが、今回の作品は『アメリカン・ビューティー』(1999)の繊細さに近い気がする。脚本もサム・メンデス


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