『GOLDFISH』ネタバレ

 この週末は『アラビアンナイト 三千年の願い』、『赦し』、『GOLDFISH』を観たけれど、『GOLDFISH』が圧巻。
 監督の藤沼伸一さんはアナーキーのギタリストだそうだ。「だそうだ」じゃねえだろっ!って言う人がいるかもしれない。ポスターのビジュアルが気にかかって観に行っただけだ。
 アナーキーの実話がもとになっているが観終わるまでそうと気が付かなかった。 
 私ほどの老害さんでもそうなので、多分若い世代はほぼもれなく実話と気がつかないし、きっとその方がいい。
 というのは、私小説的な小ささを感じさせない。シナリオもそうだが、それ以上に映画表現としてもっと大きな世界観を見せられる。
 私はどちらかというと音楽より絵にテイストのある観客だけど、主人公の娘(成海花音)の描く絵はすばらしいと思った。いうまでもなくその絵が何かしら説明的でありはしないように、この映画自体が、アナーキーというパンクバンドの回顧的な内容になっていない。稀有なことだと思う。
 むしろ、それが実は外形的な事実としてはほぼ実話だと聞いて驚きを覚える。どころか、予算はインディーズ映画としてもあまりにも少なく、北村有起哉の衣装は実際にアナーキーのマリさんの着ていたもの、ギターもそう。そして親衛隊が当時の衣装で友情出演している。何よりアナーキーのメンバー自身が、素人バンドの役でカメオ出演している。

 成海花音は『赦し』にも出ていた。偶然。『赦し』も力作なんだが、その力のベクトルが逆なのが面白い。『赦し』の内容については今は触れないが、監督が日本人ではないのが見始めてしばらくするとわかってしまう。これは不思議。いじめ、それが発端の殺人、裁判、そのすべてが日本の現実とは微妙にずれている。親子、夫婦、罪悪、憎悪、贖罪、そういった普遍的なテーマに対する取り組みは真摯なものだが、日本人の現実的な問題とはほとんどリンクしていない。
 それに対して「GOLDFISH」は、架空のGUNSてふパンクバンドを描きながら、実在のアナーキーにだんだん重なっていく。
 実際、映画の発端だけ見るとこれが実話ベースとはとても思えない。初めから実話っぽい描き方って何かあるわけじゃないですか。この映画は違う。実話って気がつかなかったのはそのせいもある。
 主人公の娘が絵を描いている。そして見上げた空に水のゆらぎのようなものが見える。そのトーンが最後の通夜のシーンまでずっとつながってるのが見事だった。町田康の演じる「バックドアマン」も。
 北村有起哉有森也実が出色だった。北村有起哉は監督が『浅田家!』の出演を見て起用したのだそうだが、でも、あの時とは全く違うし、今までのどの北村有起哉とも違う。ていうか、こんなに死の匂いがするキャラクターって映画に出てきたことないと思う。
 歩道橋のシーンで永瀬正敏が振り向くときに、アナーキーについて何も知らない私でも「この人死ぬんだな」と思った。そのシーンが冒頭の渋谷のシーンとリンクしてる。そういうあたりを語りだすとキリがなくなるが見事だった。
 通夜に出てくる金魚は、演技指導したのかってくらい切ない。目が合う。CGかと思ったが、そんなカネがあるはずもない。北村有起哉は自分が出ていないにもかかわらずあの通夜のシーンがいちばん印象的だそうだ(パンフ買いました)。有森也実は、登場から退場まで見事としか言いようがない。すごい女優さんがいるんだなと思わされた。


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GOLDFISH
GOLDFISH

 余談になるけど、昔『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』って映画観た時に、「セックスピストルズについては悲しくなるのでとばします」って何にも触れない。「いや、それは・・・」って思った。