『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』

 伊藤沙莉が主演を務める探偵もの。タイトルを聞いただけで、永瀬正敏が探偵濱マイクを演じた『我が人生最悪の時』を思い出させる(それがまた『我が生涯最良の年』って映画のパロディだが)。探偵濱マイクはのちにTVシリーズにもなった。あの当時の永瀬正敏の人気に、今の伊藤沙莉が肩を並べているって感じ。わからないでもない。名前だけで客が呼べるってだけでなく、スタッフやキャストが集まってくる感じがある。
 濱マイクは横浜だったけれど、探偵マリコは歌舞伎町。縦軸に一貫したプロットはあるものの、6作の短編連作という形をとっていて、内田英治と片山慎三の2人の監督が分業で撮っている。これもまたTVの「濱マイク」や「傷だらけの天使」を思い出させて楽しい。
 濱マイクを作り出したのは林海象だが、TVシリーズ石井岳龍中島哲也行定勲青山真治と、なかなか錚々たる名前が並んでいる。
 濱マイクについて書いてるのか探偵マリコについて書いているのかわからなくなるので、濱マイクについてはAmazonプライムで見られるのでそちらを当たっていただくとして、それに加えて、6つのエピソードごとに変わるキャストの豪華さも楽しい。マリコは副業でバーテンをやってるので、店の常連客がいろいろ副筋を提供してくれるわけである。
 メインプロットの宇野祥平さんも面白いけれど、個人的には、北村有起哉さんのエピソードと、中原果南さんと島田桃依さんが演じる殺し屋のエピソードが面白かった。
 北村有起哉はでも『GOLDFISH』が最高だったから、今回は中原さんと島田さんだな。あの2人でスピンオフを作って欲しい。島田桃依さんは何気に『MONDAYS』にも出てたし、久保史緒里さんは『リバー、流れないでよ』にも出てたから、2日連続で観た。乃木坂なのに、結構攻めた映画に攻めた役で出てますね。
 難を言えば、もうちょっとディテールにこだわってもらった方が真剣に笑えた。例えば、FBIは違うと思う。それから、せっかくバーテンなんだからカクテルにもこだわって欲しかった。『シューマンズ・バーブック』にあるように日本はカクテルのメッカって一面もあるので。
 その意味では、北村有起哉エピソードと、中原果南、島田桃依エピソードが笑えるのは、セックスのディテールが個性的だからだな。マジックミラー号をあんなふうに映画に使ったのはこの作品が初めてかも。
 ところで、竹野内豊が忍者の末裔を演じているけど、たしか、ライスの関町って恵比寿生まれで先祖は福島の忍者じゃなかったっけ。あの役がライス関町だったらもっと笑えたな。