『アンダーカレント』ネタバレ

 今泉力哉監督が、マンガが原作の映画を撮った。是枝裕和監督の『海街diary』みたいな。
 原作者の豊田徹也さんとは映画化が決まる前に会って4時間話し込んだそうだ。それまでも何度か映画化の話があったが断った経緯があるそうなので。 
 その時の話でなるほどと思ったのは、私も原作は読んだのだけれど、そもそもが映画みたいなマンガなので、かえって映画化がむずかしいって話。
「これって映画にして面白くなると思いますか?」
と聞かれて
「ほんとそうですよね」
と答えたそうです。
 そこで豊田徹也さんが「え」とかなってたらコントでしたけどね、「いやいや、ちょっとは面白いでしょうよ」とか。
 実際、探偵の山崎は、豊田徹也さんがリリー・フランキーさんを念頭に原作を書いた「あてがき」だったそうです。
 そういうわけで、リリーさんがしばらくぶりにいいですね。一時期はリリーさん出過ぎくらい出てましたけど。リリーさんの探偵といえば、是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』にインスパイアされたのでしょうか。
 今気がついたけど、『海よりもまだ深く』の阿部寛の元嫁さんが真木よう子さんでした。
 真木よう子さんは原作のファンだったそうです。FIGARO Japanのインタビューによると、

「私にとってのかなえちゃんは、過去にあったことを決して忘れていない」ということを今泉力哉監督に伝えたかったんですよ。そこは解釈のすれ違いで、今泉監督は「かなえは過去のことを忘れている」と思っていて、いや、そうじゃない、もうちょっとこの子のことを考えてくれないと可哀想だって感情的になってしまった時もありました。

だそうです。
 真木よう子さんについて思い出すエピソードは、『さよなら渓谷』の時も、原作者の吉田修一

「僕自身、これは、希望というか明るい結末だと思っていました。そうしたら真木さんがいうんです、『違うんです』と(笑)。真木さんが演じた女性は、この時期は人生の一部ではなく、まったく別の世界を生きている。だからこそ、かなこと俊介は一緒にいられたのだと。それを聞いたとき、本当にその通りだと思いました。

原作者より深く行っちゃうっていう。
 SCREEN onlineの監督インタビューによると、脚本は澤井香織さんに書いてもらい、そのあと、やりとりしつつ練り上げていったのだそうです。その過程で、原作の豊田徹也さんに意見をもらったり、たぶん脚本が出来上がってからも真木よう子さんとか演者ともやりとりがあったり。そうやってチームで作り上げていく感じが、日本映画の醍醐味かも知れません。
 『福田村事件』を思い返してみると、あれは、森達也さんの流れと、荒井晴彦さんの流れがミックスしてるのが如実にわかる。それが厚みになってました。
 いや、偶然思い出した『福田村事件』でしたけど、あれも井浦新さんと永山瑛太さんだわ。
 この『アンダーカレント』のモチーフで永山瑛太さんというと、坂元裕二脚本のテレビドラマ『それでも、生きてゆく』では、今回の井浦新さんの立場に永山瑛太さんが立っていたわけでした。改めて言いますが、この辺、盛大にネタバレしてます。
 ただ、あの時は、犯人が親友で、犯人との間にも重い葛藤があった。今回は、そこではないんです。なので、村上春樹作品みたいに、突然消える伴侶の永山瑛太さんの心理は、描ききれていないといえるかもしれません。
 一方で、唐突に現れた男、井浦新さんの側の心理も、また、彼に対する、真木よう子さん側の心理も完全には描ききれてないかもしれませんが、ただまあ何から何まで描き切るのがよい映画ではないわけで。
 原作とはラストが違っていて、というか、原作のラストより少し先の時間が描かれていて、そのラストがすごく効いていると思いました。
 あんまり見たことがない距離感だと思います。映画では、堀さんが、かなえに、自分は早苗の兄だと打ち明ける。そのシーンが原作にはないので、その重さの分、ラストはどうしてもその先まで延びざるえなかったと思う。
 私はあのラストシーンがすごく好きです。川沿いの道を犬を散歩させているかなえの後ろ姿がまず見える。「ああ別れちゃったのかなあ」と思うと、その5〜6メートルかな、そのくらい離れて歩いてくる堀さんが見える。肩を並べてない、別の道を歩いてるのでもない、離れておんなじ方向に歩いてるってラストシーン、そんなになくないですか?。いい距離感だなと思いました。

screenonline.jp

madamefigaro.jp


www.youtube.com